一蘭「お子様ラーメン無料」の神対応の裏側にある哲学がホントに神レベル

2023年2月8日

全国に約80店舗を構える天然とんこつラーメン専門店「一蘭」。一人用席に仕切りを設置した「味集中カウンター」があることから、ストイックで敷居の高いイメージを持つ方も多いかもしれません。

しかし実は今、一蘭が子ども連れに大人気なのだとか。そのきっかけとなったのが、小学6年生までを対象にした「お子様ラーメン」サービスです。なんと、大人1名の注文でお子様5名までが無料になるという太っ腹ぶり。SNSでも「子ども無料、ありがたすぎる」「神対応!」と家族連れの喜ぶコメントがあふれています。

ラーメン店として例を見ない無料の「お子様ラーメン」サービスは、一体どのような経緯で生まれたのでしょうか。そもそも、無料提供なんてしてしまって大丈夫なのでしょうか。

企画から携わってきた広報担当の五十嵐 正和さんに、「お子様ラーメン」サービス誕生の裏側を聞きました。

お話を伺った広報の五十嵐さん

とにかく最高の状態でラーメンを食べてもらいたい

──小学6年生まで無料の「お子様ラーメン」が話題になっていますよね。いつごろからこのサービスは始まったのでしょうか?

実はサービス開始からもう10年以上経つんです。2012年に関東と福岡で1店鋪ずつ導入したところ大変好評だったので、その後少しずつ導入店舗を増やしていきました。当時は未就学児のお子様が対象でした。

現在のように小学6年生まで対象を拡大したのは、コロナ禍になってからです。最初のころ、入学式、卒業式、運動会、遠足などのイベントができなくなった時期がありましたよね。子どもの楽しみが奪われてしまっている中で弊社としても何か応援できないかと考え、「お子様ラーメン」を全店に導入して、対象を小学生以下に拡大することにしました。

全店導入から3年近く経つのですが、特に2022年に入ってからSNSなどで話題にしていただくことが増えたように思います。

一蘭で提供しているお子様ラーメン。無料とは信じられないクオリティ。

──10年以上前からあったんですね! そもそも「お子様ラーメン」サービスが誕生した経緯を教えてください。

当時、広報部内や他部署との打ち合わせの中でも漠然と、「お子様連れの方も来店しやすい店舗にしたいね」という話をしていたんです。


世の中を見てもお子様向けラーメンを提供している店は多くなかったと認識していますし、一蘭の場合はカウンターに仕切りがついているので、「子供を連れて来店しても良いのかな?」と思われる方もいらっしゃったかもしれません。

座席の前と横に仕切りがある一蘭名物「味集中カウンター」。子ども連れはウェルカムではないと思いきや……。

ちょうどそのころ、ロードサイドにも店鋪を出すようになり、ご家族連れのお客様のご来店も増えてきておりました。

そのため、一部の店舗では、テーブル席を設けたり、半個室を作ったり、お子様椅子やお子様用の背もたれを導入するなど、ご家族連れのお客様にも来店していただきやすい環境づくりを進めていきました。

そんな中、ご来店されるお子様連れの方を店内で拝見すると、お子様の分を取り分けてからご自分のラーメンを召し上がることが多く、親御さんが食べられる時にはラーメンが冷めてしまっていることがありました。また、お子様に合わせて赤い秘伝のたれを「なし」でご注文され、お子様に取り分けた後で追加希望をされる方が多いことに気が付きました。

そのような様子を見て、親御様、お子様それぞれに最もおいしい状態のラーメンを食べていただきたいという思いから「お子様ラーメン」の案が浮上しました。

静岡の県道沿いにある静岡SBS店の外観

──無料で提供となったのは、なぜですか?

「お子様ラーメン」を提供すると決めたとき、正直最初は回転率がどうなるかとか、金額をいくらに設定するかといったシミュレーションをしていました。

そういう会議をしているときに、弊社代表の吉冨がちょうどその場にいまして。「小さいお子様を連れてわざわざ足を運んでいただいている。そういったお子様や親御様にも、最高においしいラーメンを食べていただきたいというのが、私たちが目指しているところなんじゃないか」と発言したんです。

この一言で、その場にいた全員が「ああ、なるほど」と原点に立ち返ったんですよね。考えるべきことは、「お客様においしいラーメンを食べていただくために一番良い方法は何か」だったんです。

「親御様とお子様に、気兼ねなく最高の状態でラーメンをお召し上がりいただくためにどうすればよいか」を改めて検討した結果、日頃一蘭をご愛顧くださっているアプリ会員様への感謝の気持ちも込めて無料でお子様ラーメンを提供することにいたしました。

──たしかに、小さなお子様がいると取り分ける時間がかかったり、お子様が食べられる味にせざるを得なかったりと制限が出てしまいますよね。

そうなんです。弊社には「15秒の掟」というものがありまして。ラーメンが出来上がってからお客様のもとに配膳するまでの時間を15秒以内と厳格に定めているんです。15秒以内だと最高の状態で召し上がっていただけます。逆に、それより長くなってしまうと、麺が伸びたり、冷めてしまったりして味が落ちてしまいます。

ところが、店内でお子様連れの方を見ていると、やっぱり取り分けている方が多くて。親御さんが食べるときには冷めてしまっているんです。

そのような掟があるため、親御さんが取り分けている間に麺の状態がどんどん変わってきていることが、なおさら気になるんです。

すべてのサービスの根幹にある一蘭の哲学「フィロソフィル」

──とはいえ、店鋪の回転率や売上にも少なからず影響すると思いますが、反対意見はなかったのでしょうか?

店舗の回転率や売上も検討はしましたが、やはり私たちの一番のこだわりはお客さまに「おいしいラーメンをおいしい状態で食べていただく」でした。

もちろん、会社なので利益は追求しなければなりませんが、弊社には店鋪ごとの売上ノルマはありません。売上のことは会社が考えればいい。スタッフの皆さんには「最高のラーメンを提供する」ことだけに集中してほしいという考えで、実際に店舗でも本社の会議でも、それが行動の大きな指針になっています。

代表も「最高のラーメンを提供する」が一蘭の矜持だと常に言い続けているので。

──すべては「最高においしいラーメンを食べていただくため」なんですね。一蘭のあらゆる店鋪、スタッフにその考えが共有されているのがすごいなと感じます。

弊社には「フィロソフィル」というものがあります。「philosophy(哲学)」+「will(意志、志)」を掛け合わせた造語で、代表の吉冨が考案しました。お客様との向き合い方やチームワーク、ブランドとは何かなど、一蘭の根幹にある哲学をまとめたものです。これが社内に広く浸透していることが大きいと思います。

100以上のフィロソフィルが存在していまして、1日1回は業務の中で、自分が好きなフィロソフィルについて、思っていることを書くという時間を取っています。

──ちなみに、五十嵐さんの好きなフィロソフィルはなんですか?

私はもともとフィロソフィルに感銘を受けて入社したので、たくさんあるのですが……。

「欲には際限がなく悪循環を生み出すため、「欲の思考」を「愛の思考」に変えることで欲をコントロールします。欲の思考とは「欲しい(執着、保管)、批判や避難、比べたい、もっともっと」等で、それらが発生した場合は、「肯定、感謝、与える、手放す(忘れる)、受け入れる(認める)、満足する」等の愛の思考に変えてみるのです」

この言葉は胸に留めています。例えば、同じ行動をしたとしても、お金もうけをしたいのか、誰かの役に立ちたいのかでアプローチや結果が変わると思うんです。欲でなく愛を持って行動することで、結果として良い影響がどんどん広がっていくはずです。

──愛を持って行動する……。「お子様ラーメン」の無料提供にも通じるものがありますね。

そうかもしれないですね。お客様に本当に喜んでいただくことが、結果的に一蘭のファンを増やし、ブランドを強くすることにもつながりますから。

「愛の思考」で最高のラーメンを!

お子様にも大人と同じ体験をしてもらいたい

──「お子様ラーメン」を提供するにあたって苦労したことはなんですか?

一蘭ではお客様においしいラーメンを味わっていただくために、味や麺の硬さなどを選んでいただいたり、仕切り壁があったりと独自のシステムを取り入れています。こうした一蘭ならではの体験を、ぜひお子様にも楽しんでもらいたいと考えました。

──つまり、「お子様ラーメン」で提供しているのは大人と同じ味、同じ体験ということですか?

そうです。まず、お子様用のオーダー用紙を作りました。ニンニクなどのイラストをいれて、お子様が楽しみながら○をつけられるようにしています。

お子様ラーメン用のオーダー用紙。子どもの好き嫌いにもやさしく対応

お子様用のどんぶりも新しく開発しました。通常は有田焼きのどんぶりを使用しているのですが、陶器なので割れやすく、熱くなりやすいんです。そこで、メラミン素材にして、安全に食べられるどんぶりにしました。

──本格的でありながら、安全性にも配慮しているんですね。どんぶりのデザインも大人用と似てますよね。

これは失敗談なのですが、当初、男の子のキャラクターをどんぶりに描いたところ、あまり可愛くなかったせいか、お子様にうけなかったんですよね。

試行錯誤するうちに気付いたのは、お子様は大人と同じ体験をすることが楽しいんだな、ということ。一人前になった気持ちになれるのかなと思います。結局、大人用と似たデザインのどんぶりのほうがお子様の反応が断然良かったんです。

──実際、五十嵐さんも店鋪でお子様の姿を見たことが?

もちろんです。楽しそうにオーダー用紙に自分で書いて、「ぼくのラーメン来た!」と喜んでいる姿を見ると微笑ましいですし、うれしいですよね。親御さんに取り分けてもらったラーメンと、自分専用に作ってもらったラーメンって、お子様にとって嬉しさが全然違うのかなと思いました。

──「お子様ラーメン」を導入してから、店鋪の雰囲気は変わりましたか?

弊社としては以前から親子連れのお客様もウェルカムで、お子様用の器やフォークを用意していたのですが、以前はそういうイメージがあまりなかったと思います。

「お子様ラーメン」を導入してからは「子ども用フォークください」と声をかけてくれるお客様が増えたように感じますね。子ども連れでも大丈夫なんだというイメージが広まったのだと思います。

──よくSNSで、「子連れでラーメン食べに来るな」といった議論が巻き起こりますよね。

個人的な見解としては、お子さんがラーメンを食べてニコニコ喜んでいる姿を見たら、周囲の人も微笑ましい気持ちになると思うんです。誰でも子ども時代はあったわけですし、そういう姿を温かい目で見守るような世の中になるといいですよね。

すべてのお客様に最高においしいラメーンを食べていただきたい。これが、私たちの一番のこだわりです。それを第一に考え、今後もどなたでも入りやすい店鋪づくりをしていきます。

加えて、世の中に必要とされる会社であるために何をすべきか、というのは常に考えています。おいしいラーメンを食べていただき、元気になっていただくことを通して、地域の方々に長く愛していただけるお店を作っていきたいですね。

(文:村上佳代 写真提供:一蘭)

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編集/ライター村上佳代
ビジネス系やインテリア系のインタビューをしつつ、企業媒体の企画制作をしてます。ようは雑食。趣味はドラマの伏線分析。

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