コロナ禍によって、人と会わないことが推奨されるという前代未聞の事態となったニューノーマルの時代。己の身体能力に磨きをかけ、高めた選手たちの競い合いから感動が生まれるスポーツイベントも多大なる影響を受けました。

しかし、人間はここで歩みを止めはしない。困難が続く新たな時代も、新たなアイデアとテクノロジーで切り開いていく。

そんな感情が見えてきます。オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナー(映像音響機器・白物家電・電動アシスト自転車)であるパナソニックが取り組む「SPORTS CHANGE MAKERS」には。

発起となったのは2019年9月。まだ新型コロナウイルス感染症の感染拡大が世の中に現れる前のことです。国際オリンピック委員会(IOC)・国際パラリンピック委員会(IPC)の協力のもと、パナソニックが将来のオリンピック・パラリンピック開催予定の4都市(日本・東京/中国・北京/仏国・パリ/米国・LA)の学生たちに呼びかけました。

アイデア、求む。と。

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Image: SPORTS CHANGE MAKERS - Panasonic

テーマは「GOING BEYOND BARRIERS」。映像・音響機器のテクノロジーの力で性別、年齢、国境や時間、障がいの有無など、あらゆる固定観念やバリアを超え、スポーツの更なる価値や魅力を生み出す新しいアイデアを求めたのです。

その声に応えた、若く、才覚のある学生たちが集い、将来のオリンピック・パラリンピック開催予定の4都市(日本・東京/中国・北京/仏国・パリ/米国・LA)で数多くのアイデアを披露する予選会を開催し、各地域の代表が決定。東京2020オリンピック・パラリンピックは残念ながらコロナ禍によって1年の延期を余儀なくされましたが、今年の8月には最終プレゼンテーションが予定されています。

そして2021年3月9日。パナソニックは「SPORTS CHANGE MAKERS プレイベント in Mirror Field」を開催しました。会場となったのは東京・有明にあるパナソニックセンター東京ですが、世界中のどこからでもアバターで参加できる新しいイベントに挑戦しました。すべては、「GOING BEYOND BARRIERS」というテーマに則り、リアルとバーチャルの壁を超え、学生たちの熱い想いを届けるために。その内容を、詳しくレポートしていきましょう。

SPORTS CHANGE MAKERSにかけるキーマンの想い

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Photo: 武者良太

改めて「SPORTS CHANGE MAKERS」とは、パナソニックが取り組む学生限定のコンテストです。

世界中で多種多様なスポーツの大会が開催されてきましたが、人間の身体能力を競い合う以上、選手が一同に集う必要があります。また観客としても、開催される会場に行かねば試合を隅々まで見ることができません。

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Photo: 武者良太

そこでパナソニックは、このような実際に選手が集わなくてはならない“距離の壁”、観戦時に感じる壁や他の社会に存在する壁をスポーツとテクノロジーの力で解決するアイデアはないか、と学生に呼びかけ、コンテストを行いました。

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Photo: 武者良太

「SPORTS CHANGE MAKERSは多様性と調和を掲げる東京2020大会をきっかけとして、若者とともに将来のオリンピック・パラリンピックをよりよいものへ、そしてスポーツを通じたよりよい社会の実現につなげるプロジェクトです」(パナソニック ブランド戦略本部 オリンピック・パラリンピック課 福田泰寛氏)

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Photo: 武者良太

「テクノロジーによって世界中のスポーツファンが、これまで以上にお気に入りの選手とつながっていくでしょう」(国際オリンピック委員会 テレビ&マーケティング・サービス部門 マネージング・ディレクター ティモ・ルメ氏)

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Photo: 武者良太

「テクノロジーの力を活用して、誰もがアクセスできるインクルーシブな世界を作りましょう」(国際パラリンピック委員会 チーフブランド&コミュニケーションオフィサーのクレイグ・スペンス氏)

SPORTS CHANGE MAKERS」のキーマンといえる3人のコメントからも、学生のアイデアによるスポーツテックがもたらす未来を期待していることがうかがえました。

選手、学生、経営者、社員。四者四様の感じてきた“壁”

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Photo: 武者良太

続くパネルディスカッションには、東京2020組織委員会スポーツディレクターの小谷実可子氏、京都工芸繊維大学の大学院生でSPORTS CHANGE MAKERSの日本代表でもある横瀬健斗氏、東京2020組織委員会アドバイザーの澤邊芳明氏、パナソニック アプライアンス社 Game Changer Catapult 「Spodit」チームの川合悠加氏が参加しました。

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Photo: 武者良太

モデレータであるITジャーナリストの林信行氏がみなさんに尋ねます。“スポーツ×テクノロジーでバリアを超えることができるのか”というテーマを元に、いままでの人生体験において、どんな壁を感じてきたかと。そしてテクノロジーに期待していることを。

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Photo: 武者良太

女子アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)選手であり、ソウル1988オリンピックでは銅メダルを獲得した小谷氏は「言葉の壁があった」といいます。「海外にいってもコーチの言っていることがわからないんです。だから最初はなかなか受け入れてもらえなかったですね。でも身振り手振りで接していたら、みんなも同じように身振り手振りでコミュニケーションしてくれるようになりました」。

驚いたのは、現在のアーティスティックスイミングを取り巻くスポーツテックです。実はバーチャル大会が開催されているのだそうです。「陸上で行った演技を、水中で演技しているようにCG編集して、それを見た国際大会の審判が点数をつけてくれるんですよ」。

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Photo: 武者良太

SPORTS CHANGE MAKERSの日本代表である横瀬健斗氏も、コミュニケーションの難しさを指摘していました。「SPORTS CHANGE MAKERSのプロジェクト開始当時はフィンランドに留学していたんです。色んな国の留学生と交流していたのですが、リアルなコミュニケーションでも価値観の違いがあって難しいのに、オンラインだとより難しくなったと感じました」。

しかし「そのときに可能性があるな、と思ったのが、画面越しなのだから紙にスケッチを書いたり写真を見せたりと、言葉にとらわれずにコミュニケーションしたほうがいいと感じたし、実際に意思疎通がしやすくなった」そうです。

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Photo: 武者良太

東京2020組織委員会 アドバイザーの澤邊芳明氏は、18歳のころにバイク事故で頚椎を損傷、2年間のリハビリを経たのちに起業したという経歴を持ちます。「1995年にバリアがなく、世界中の人とコミュニケーションできるインターネットと出会ったのが大きかったです。ニューノーマルの時代で働き方が急激に変わったことで、バリアってなんだろうと考えるようにもなりました。出社しなくても思考能力があれば、周囲が認めてくれるようになったわけですし」。

自らの体験から「テクノロジーが体験を拡張していくと考えています。テクノロジーで試合の置き換えができるかどうかも考えています」とスポーツテックに関して高い期待を持っていました。

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Photo: 武者良太

パナソニックに勤める川合悠加氏の壁は、「入社して初めて配属された部署は40~50代の男性で役職付きの方が多く、最初は年齢やキャリア、性別で壁を感じてしまって萎縮してしまっていた自分がいたんですね」だったそうです。そこで「自分からコミュニケーションをとり続けることで信頼関係を築いて壁を取り払えたかなということがありました」とのことでした。

テクノロジーに関しては、未来の家電を形にするGame Changer Catapultに属していることもあり、「現在の日本の出生率低下は、女性の社会進出にともなって未婚化・晩婚化ということが上げられると思うんですけど、それは諸外国と比較して日本がまだ女性の家事労働負担が大きいというということがあると考えています。そのため家電で家の問題を解決していけるように取り組んでいます」と、家電の可能性に触れていました。

リアルな世界をバーチャルで同じように再現する「Mirror Field」

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Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via SPORTS CHANGE MAKERS - Panasonic

さて、ここまで東京・有明にあるパナソニックセンター東京で開催されたSPORTS CHANGE MAKERSプレイベントの様子をお伝えしてきましたが、最初に記したとおり、このイベントは現地に赴かず、ブラウザ画面越しにアバターで参加できるイベントでもあったのです。

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Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via SPORTS CHANGE MAKERS - Panasonic

現実空間にあるモノをオブジェクトに置き換え、インターネット内の仮想空間にも同じものを再現するデジタルツイン。これこそが、パナソニックが目指しているリアルとバーチャルの融合、「Mirror Field」です。

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Photo: 武者良太

現実世界からも、仮想空間上の参加者が会場のどこにいるのかがわかるシステムとなっていました。

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Photo: 武者良太

SPORTS CHANGE MAKERSプロジェクト テクニカルディレクターの北島ハリー氏は、今回のSPORTS CHANGE MAKERSプレイベントはアバターによる参加およびテキストチャットによるコミュニケーション機能を実装したそうですが、必要に応じて音声チャット機能も実装することが可能だといいます。

おたがいにスマートフォン、タブレット、PCの画面越しとなりますが、世界のどこにいても1つの会場に集える「Mirror Field」は、まさにアフターコロナを見据えた時代に欠かせない技術となるでしょう。

学生たちのアイデアが具現化される本番は8月23日

今回のSPORTS CHANGE MAKERSプレイベントのリアル会場でもバーチャル会場でも、「SPORTS CHANGE MAKERS」の最終プレゼンテーションに望む、各国代表からのビデオメッセージが公開されました。

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Photo: 武者良太

「オリンピックやパラリンピックは、常に異文化コミュニケーションのための大きな機会を作ってきました。大会開催国の人と交流で文化を経験したい旅行客も、海外の人々と交流したい開催国の人々にも言語による障害がありました。そのため私達は、より簡単にコミュニケーションをとり、すべての人々が素晴らしい思い出を作れるようにしたいのです」(中国代表)

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Photo: 武者良太

「新しい人がスポーツに参加するための主要な障害は、そのスポーツを完全には理解していないことだとわかりました。そこですべての人々があらゆるオリンピック種目のルールに素早くアクセスできる使いやすいアプリケーションで、この問題を解決したいのです」(欧州代表)

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Photo: 武者良太

「新しい発明やイノベーションで、人を助けることに決めました。私達が乗り越えたいバリアは、障害をもった人々、具体的にはすべての聴覚障害をもった人々がオリンピックに行くということです」(アメリカ代表)

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Photo: 武者良太

日本代表の横瀬健斗氏は、プロジェクトにかける想いを語りました。

「過去にサッカーをやっていたのですけど、振り返ってみると、一番自分がスポーツを楽しんでいた瞬間はテレビで試合を見るより、グラウンドなどで知っている人とも知らない人ともいっしょに日が沈むまでボールを蹴っていたりという体験だったんです。だからこそ、2021年を生きる子どもたちが10年後や20年後、スポーツの体験を振り返って尊くてかけがえのないものだったと思えるような体験を作れないか、と思いながら、8月に向けて進めていきたいと思っています」

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Photo: 武者良太

きたる2021年8月23日、SPORTS CHANGE MAKERSの最終プレゼンテーションが実施されます。学生の彼らが考える壁を超えるアイデアの全貌が世間に発表されます。今回のSPORTS CHANGE MAKERSプレイベントと同様に、リアル会場でもバーチャル会場でも体験できるようになっているそうです。

スポーツイベントとの触れ合い方、そしてイベント参加者同士のコミュニケーションが進化する1歩となるであろう「SPORTS CHANGE MAKERS」。見逃すわけにはいきませんね。


Photo: 武者良太

Image: SPORTS CHANGE MAKERS - Panasonic

Source: SPORTS CHANGE MAKERS - Panasonic