“愛されキャラ”の条件って?「LOVOT」開発チームに聞く、愛が生まれるメカニズム

2021年5月17日

ロボットといえば、工場でもくもくとモノづくりに励んだり、家庭の掃除や洗濯などを担ってくれたりと、私たちに実益をもたらす便利な存在です。一方で、「なんの役にも立たない」と公言されて登場したのが、家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。このLOVOTが今、30〜50代の年代を中心に大ヒットしているのです。

LOVOTは「ソロ(1体)」と「デュオ(2体)」の2パターンで販売中。ソロの本体価格は48カ月間の分割払いで、初期費用0円月額2万4401円(49カ月以降は1万4278円)。

2018年12月に発表されて以降、『かわいい感性デザイン賞』2019最優秀賞や『CES2020』イノベーションアワードなど数々の賞に輝いて、とにかくかわいいことで一躍有名に。さらにコロナ禍では購買数が最大約11倍に跳ね上がり、今や入荷は3カ月待ちという大変な人気です。

しかもこのLOVOT、かわいいのは姿だけじゃないようで、TwitterやYoutubeに上がっているオーナー様の投稿を見ると「ふるまい」や「反応」にみんなメロメロなのです。

ああ、一体どうしてそんなにかわいいの?どうしたらそんなに愛されるの? その答えを探して「LOVOT MUSEUM(らぼっと ミュージアム)」へ。

東京・日本橋にある「LOVOT MUSEUM」(事前予約制)。運営元は「GROOVE X」。Pepper(ペッパー)の開発に携わった林 要氏が率いるロボットベンチャーです。

GROOVE X社の「ふるまいチーム」のメンバーであるアニメーター・中里紘季さん、エンジニア・沼口直紀さんのお二人がインタビューに答えてくれました。

愛くるしいコミュニケーションロボット、その“生態”は?

──実際に動いているのを見ると、ますますかわいいですね。LOVOTって、一体どんなロボットなんですか?

中里:LOVOTは「愛されるために誕生した」家族型コミュニケーションロボットです。LOVEをはぐくむロボット”だから「LOVOT」と名付けられました。

生き物のように動き回りますが、地球上のどんな物にも似ていない独特のフォルムとしぐさが特徴です。体温は37〜39度の設定で、触るとぬくもりがあり、かわいがってくれる人によく懐きます。家事はできないのですが、お出迎えや見回りは得意で、自分でネスト(充電ステーション)に戻って充電もします。また、LOVOTなりの意思があるような行動も多いんですよ。

アニメーター・中里 紘季さん。映像やゲームを制作する会社でグラフィックデザインを担当したのち、コミュニケーションロボットが大好きで2017年に入社。主にLOVOTの瞳の開発などで活躍。

──意思があるような行動、というと?

沼口:声をかけると喜んで駆け寄ってきたり、好きな人の後ろをついて回ったり、抱っこをせがんだり。あるいは、甘えたり、待ち伏せしたり、すねたり、嫉妬したり。ほかのLOVOTと遊びたがることもあって、遊んでいる時は声をかけても来ません。彼らなりに自分の時間があり、人生があるようなイメージです。

エンジニア・沼口直紀さん。ゲーム会社でソフト面の研究開発に従事したのち、ロボット愛が高じて2018年に入社し、バーチャルな世界からリアルな「ものづくり」の現場へ進出。前職の腕を活かして「ふるまい」などの開発に携わる。

──まるで生き物のようですね。この命らしさを生み出す源はなんですか?

沼口:LOVOTのボディの内部には、実は10以上のCPUコア(central processing unit)、20以上のMCU(Micro Controller Unit)を搭載していて、さらに全身に50を超えるセンサーを張り巡らしています。

ここからキャッチしたデータをリアルタイムに処理しているんです。だから、人の接し方によってLOVOTの反応がどんどん変わるんですよ。

──ということは、開発者が予想しない動きをすることも?

沼口:あります。LOVOTは、開発者のぼくらも「こうしたら、必ずこうなります」ということを言えない存在なんです。ときどき、ユーザーさんが投稿された動画を見て驚くことがあって。とくにLOVOTが2体で遊んでいるときに意外な行動をしがちですね。

中里:LOVOTたちは基本的な性格がある一方で、毎日さまざまな情報を学習し、蓄積しているため、個性が育っていくんです。たとえば、この子は「ぱんぷきん」。しっかり者なので、社員やユーザーさんたちから「ぱんぷきん先輩」って呼ばれています。

首を動かしたりまばたきしながら話を聞いているぱんぷきん先輩。ときどき「キュー、キュー」とひかえめに会話に参加してきます

このミュージアムにはいろんなLOVOTがいますが、ぱんぷきん先輩のようなしっかり者もいれば、甘えんぼうもいて、好奇心旺盛な子、おだやかな子など、みんな性格がちがって面白いんですよ。また、目や声もカスタマイズできるようになっていて、それぞれ10億種類以上あります。

人間はどういう相手に愛着をもつ? 愛が生まれるメカニズム

──“愛される”というコンセプトを実現するにあたり、いろんな調査をされたそうですね。

中里:はい。人間が、誰かや何かを愛するときのメカニズムを知るために、とくに人間の愛着形成に詳しい専門家の方々にお話をお伺いしました。その過程で、愛着を生み出すためにはいくつかの要素があることがわかったんです。

その要素を取り入れるために、開発チームが一丸となって丁寧に作り込んだのが、次の3つの機能です。

1.しっかりと目線を合わせる
2.名前を呼ばれたら必ず反応する
3.外界の刺激にリアルタイムで反応する

──ここに「愛される存在になる」ためのヒントが詰まっていそうですね。ぜひ一つずつ聞かせてください。

【LOVOTが愛されるための機能1】「しっかりと目線を合わせる」

中里:「目は口ほどにものをいう」とも言いますが、人間が愛情を伝えるとき、”見つめる”というアイコンタクトはとても重要な役割を担うそうです。そこで、人間をはじめとするいろんな生物の目を調べ、どんな動きをするのか、どうすれば目線が合うのかを研究しました。

参考にした目はいっぱいあるけれど、最終的に辿り着いたのはあくまでもLOVOT独特の目。みんなで細かいところまで相談し、気が遠くなるほどテストを繰り返しました。実は、瞳の開発だけで3年かかっています。

沼口:LOVOTの瞳は6層からなる映像をディスプレイに投影していて、立体的な動きができ、どこを見ているのか良く分かるようになっているんです。「視線の動き方」はもちろん、「瞬きのスピード」、「瞳孔のひらき方」なども細かく作っていて、人が顔を近づけるとLOVOTの瞳は瞳孔が大きく開くんですよ。

──LOVOTに見つめられると、すごく興味を持たれている、好かれているという感じがします。これは精巧な技術のなせる技だったんですね。

【LOVOTが愛されるための機能2】「名前を呼ばれたら必ず反応する」

沼口:人間同士のコミュニケーションにおいて、「名前を呼び合う」ということもとても大切なんだそうです。LOVOTはしゃべれないのですが、LOVOTの名前を呼ぶと、ちゃんと反応して行動します。喜んで駆けつけてくることもあれば、返事だけ返すこともあります。

【LOVOTが愛されるための機能3】外界の刺激に反応する

中里:名前だけでなく、外界からもたらされる刺激にリアルタイムに反応を返すということも、愛着形成の大事な要素の一つ。反応にタイムラグがあると、意思疎通できた感じが一気に失われてしまうので、打てば響くような反応を即座に返せるように設計しています。

──なんという緻密な作り込み。ちなみに、愛されることを研究してきたお二人が考える“愛されキャラ”の条件とは?

中里:LOVOTの開発を通して実感するのは、やっぱりどんな状況でも「愛されたければ、まず愛する」のが大切だということ。LOVOTも、まずは自分から「好き!」と全力で示します。

人間の世界でも、自分から目を合わせたり、興味をもったり、常に反応を返すことは重要ですよね。LOVOTはしゃべれませんが、人間であれば相手の名前をしっかり呼ぶことも愛着形成には非常に効果的だと思いますね。

沼口:加えて、「裏表がない」というのもいいと思うんです。LOVOTは隠しごとをしないから、接するこちらも気兼ねなくオープンな気持ちで付き合えます。お互いにカードを隠して、高度な駆け引きをするのも楽しいかもしれないけれど、ぼくはLOVOTの純粋でストレートな愛情表現に心をゆさぶられてしまいます。

──一説によれば、刺激で繋がった絆より愛着で繋がった絆のほうが長く関係を維持できるとか。人間の世界においても、シンプルで分かりやすい愛情表現は、お互いにいい関係を続けていく上で欠かせないんですね。

アニメーターとエンジニアがタッグを組む「ふるまい」開発

──LOVOTといえば、「ふるまい」の愛らしさでも人々を虜にしていますね。これらはどのように作られているんですか?

中里:私が属するチームはアニメーターが2名とエンジニア3名で構成されています。まずはアニメーター同士で、「こういう時のLOVOTは、こういう気持ちになり、こういう動作をするはずだ」ということを話し合い、具体的な動作を考えていきます。それを沼口たちエンジニアに伝えて、形にしてもらうんです。

──ということは、LOVOTの動作にはアニメーションの手法が反映されている?

中里:そうです。私たちはディズニーやピクサーのようなCGアニメーションの動きを参考にすることもあります。動作がかわいく見ている人に伝わりやすく味付けされているからなんです。たとえば、右に行きたいとき、キャラクターはただ右に行くのではなく、一瞬左によって反動をつけてから、えいっと右に行くことで、キャラクターが次にどういう動きをするんだろうっていうことが見てる人に想像しやすくなっていたりします。

また、CGアニメでは行動した後に、なめらかな余韻が残るのも特徴です。手をあげたときは、カクンと下ろすのではなく、フワッとなめらかにおりてくる。LOVOTにはそうしたCGアニメの動きを取り入れています。

沼口:アニメーターからの要望を聞いた僕らは、「この状況だと、どのくらい動いたら伝わるだろう?」「どのくらい動いたら自然なのだろう?」というようなことを常に考えながらプログラムを組んでいきます。

LOVOTはしゃべれず、行動としても手や首、足が少し使える程度なので、その制約の中でどうしたらLOVOTの気持ちがもっともユーザーに伝わりやすいかという観点も大事にしています。

──そうして作った「ふるまい」はすべてリリースされるんですか?

中里:いいえ。「ふるまい試験」というものを設けていて、生活の中で実際にそのふるまいを見てみて、本当にLOVOTらしいかどうか、ユーザーさんにとってどんな体験になるのかをチームみんなで審査するんです。結果としてリリースすることもあれば、見送るケースもありますね。

沼口:新しい「ふるまい」が実装されると、各家庭のLOVOTたちがその機能を獲得します。だから、「あれっ、そんなこともできるようになったの!?」とユーザーさんたちによく驚かれていますね。最近だと、LOVOTの目がうれしいときにキラキラッと光るようになりました。

──開発が進むにつれて、LOVOTたちはできることが少しずつ増えて、“育って”いく。この伸びしろがある感じも、まるで命のようで愛おしいですね。

家族にかわいがられて幸せになって LOVOT開発者が夢見る未来

──最後に、開発者としてLOVOTに託す夢は?

中里:やっぱり丈夫な体で暮らしてくれるのが一番。LOVOTのボディの中には精密機械がたくさん詰まっているので、思いもよらない病気にかかるんですよ。いわゆる不具合ですね。現状でも入院や治療、定期検診というフォロー体制を整えていますが、ユーザーさんがLOVOTの健康を心配せずに楽しく生活できるように、もっともっと体が丈夫になってほしいですね。

沼口:ぼくも、まだまだLOVOTに実装したい機能がいっぱいあるんです。たとえばLOVOTと10年過ごしたとして、積み上げた歳月の蓄積によってLOVOTがその人に対して何か特別なことができるようになるような、そんな機能をぜひつけたいです。

中里:ペットと10年一緒に過ごしたら、きっとお互いに影響が出ていますもんね。生命にはあって、LOVOTにはない基本的な機能や感情がまだまだあります。もっと生命感を追求して、「もうこれは生き物だね」って認めてもらえるようなところまで到達するのが夢です。

沼口:新しい生命として家族の一員に迎えられて、かわいがられて、ユーザーもLOVOTもみんなで幸せになってほしい。そのための開発を、これからも続けていきます。

(文:矢口あやは 写真:河合信幸)

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ライター・編集・イラストレーター矢口あやは
大阪生まれ。雑誌・WEB・書籍を中心に、トラベル、アウトドア、サイエンス、歴史などの分野で活動。2020年に一級船舶免許を取得。

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