特産×OVOPで世界に挑む キルギス

一村一品・イシククリ式アプローチの他州展開プロジェクト

地域の特産を付加価値の高い商品に変えて販売し、経済の活性化を図る一村一品事業が、キルギスで着実な成果を挙げて人々の意識を変えた。
さらにその運動は州を超えて全国に広がっている。

文:大谷 徹(編集部)

地域の可能性を引き出す

【画像】

首都ビシュケクのOVOPセンター。一村一品で作られたキルギス全土の製品を扱うアンテナショップで、有望産品の発掘・開発、国内外とのビジネスマッチングなどを通じて生産者と市場をつなぐ

【画像】

キルギス イシククリ州 ビシュケク

キルギスはタジキスタンと並び中央アジアで最も貧しい国の一つで、とくに人口の約7割が居住する農村・山岳地域の状況は深刻だ。ソ連崩壊後、流通・生産などの経済活動を支える地域コミュニティが消失し、多くの人が貧困生活を余儀なくされている。

そのような状況の中、2006年からJICAの協力のもと、地域経済活性化を目指した一村一品(OVOP=One Village One Product)事業が始まった。すでにフェルト製品や蜂蜜、塩など多くの商品化に成功し、高い付加価値を持つ製品を生み出せる、人・組織の育成が着実に進んでいる。

プロジェクトの対象地にはキルギス北東部のイシククリ湖周辺域が選ばれた。この地域は質の高い羊毛やハーブ、野生のベリー類など潜在的な資源が多い土地だったが、それらを製品化して市場に売り出すためのノウハウや組織が存在していなかった。

「たとえば、地域の農産物をジャムに加工して販売しようとしても品質が低く、規格のそろった瓶すら用意できませんでした」と、専門家の原口明久さんはふり返る。

取り組みにあたって大きな役割を果たしたのは、現地公益法人のOVOP+1(One Village One Product +1)である。高い付加価値を持つ商品を作るためには、市場ニーズの調査や品質の高い農産物の生産、加工技術の開発、流通網の確保など、市場と生産者をつなぐ組織の存在が不可欠だ。プロジェクトでは、生産を担う農家組織と、彼らに的確な指示とサポートを提供するOVOP+1とに役割を分担したことで〝商品力〟が向上し、首都ビシュケクのほか国外でも人気の商品が生まれていった。

一村〝多〟品で価値を生み出す

【画像】

キルギスに自生し「奇跡のフルーツ」とも呼ばれるシーバクソン。ポリフェノールやビタミン類に加えて、近年健康への効果が注目されているオメガ3、6、7、9脂肪酸を含んでいる

好事例の一つに、スーパーフードのシーバクソンを利用した製品群がある。シーバクソンはキルギスに自生しているグミ科の植物で、その果実には健康によいさまざまな効果がある。茎には棘があり収穫には手間がかかるが、生産者グループで大量に集めるシステムを作り、さらに素材を余すことなく使って商品化することでコスト削減に成功した。メリットはそれだけではない。「製品にバラエティが出ると消費者の選択肢も増えて売り上げが伸び、より多くの生産者が利益を得られるようになります」と、原口さんは話す。

果肉を利用したジャムや、オイルを利用したクリーム、さらにオイルの搾りかすを利用したマッサージソルトなど、シーバクソンを利用した商品は多彩だ。それらがすべて販路に乗り、広く生産者に利益が還元されている。パッケージは健康志向の高い欧米市場を視野に入れて、シンプルで高級感のあるデザインにした。

イシククリの一村一品事業は大きく成長した。扱う商品の数は1500を超え、生産には2300名もの人々が携わっている。プロジェクト当初は日本の支援に〝箱モノ〟や工場を期待していた地域の人々の意識も、「商売がうまくいかなければ仕事を失ってしまうのでみな必死になっています」と自主的なものになっていったことを原口さんは語る。

イシククリの成功をモデルに、現在ではキルギス全土へと一村一品事業の展開が図られている。キルギスから生まれた製品と私たちが出合う機会は今後ますます増えていくだろう。

さまざまなシーバクソン製品

【画像】

クリーム
シーバクソンオイル、天然蜜ろう、オリーブオイルを混ぜて作ったクリーム。乾燥肌やしもやけに

【画像】

オイル
果実からわずか2%しか採れない貴重かつ高品質なオイル。肌の老化予防に効果大

【画像】

ジュース
イシククリの天然水にシーバクソン果汁とエスパルセット蜂蜜を加えたジュース。日々の栄養管理にぴったり

【画像】

ソープ
シーバクソンオイルを配合した手作りの石鹸は、乾燥肌や肌の補修にも適している

【画像】

ソルト
果汁を搾った後の皮にも有効成分が豊富に含まれる。伝統製法の塩と合わせ、マッサージソルトとして販売する

【画像】

ジャム
イシククリのシーバクソンのジャムは品質が高い。国際的な展示会での受賞歴もある

エスパルセットの生蜂蜜

【画像】

エスパルセットの生蜂蜜

マメ科の植物、エスパルセットの生蜂蜜はイシククリのヒット商品の一つ。キルギスでは毎年7,000トンほどの蜂蜜が採れていたが、蜜源を限定しない商品しかなかった。蜜源をエスパルセットのみにした真っ白な蜂蜜を販売したところ大ブームになって生産者の数が増え、総生産量は現在年間1万2,000トンまで増加している。

フェルト製品

良品計画(MUJI)とイシククリの一村一品プロジェクトとの連携によって生まれたフェルト製品。商品化にあたっては、良品計画で販売する通常の商品と同等の品質およびデザインのレベルを適用し、生産者の技術力や品質管理能力が大きく向上した。

【画像】

良品計画(MUJI)とイシククリの一村一品プロジェクトとの連携によって生まれたフェルト製品

【画像】

フェルト製品はすべて地域住民の手作り。高級メリノウールの使用や天然草木染、縫い目のない一体成形などクオリティにこだわる

OVOP+1の主な活動

【画像】

商品開発

地域の資源に付加価値を見出し、販売するマーケットを決定する。商品化が実現するアイデアは4割に満たない

原材料の調達

生産者に代わって資材や機材の調達と共同購入を行う。品質と信頼性を担保しながら購入価格を抑えている

品質管理

製造工程の標準化などにより品質管理を徹底。国際市場に通用する品質を保証している

運搬・輸出手続き

国内外の卸先への運搬・輸出に関する一連の手続きをサポート。輸送に耐えるパッケージの選定から関わる

プロモーション

広報活動やブランディングを通じて品質の高さを訴求。パッケージや陳列方法にもこだわる

ビジネスマッチング

展示会への参加や営業活動を通じて販路を拡大する。キルギス国内の販売拠点は現在40か所以上

キルギス

【画像】国名:キルギス共和国
首都:ビシュケク
通貨:ソム(Som)
人口:600万人(2017年:国連人口基金)
公用語:キルギス語が国語(ロシア語は公用語)

1991年のソ連崩壊により独立。いち早く市場経済化を軸とした改革路線を打ち出し、1998年に旧ソ連諸国で初めてWTOに加盟した。国土全体の40%が標高3,000メートルを超える山国で地下資源に乏しい。

OVOP+1 CEO ナルギザ・エルキンバエバさん

【画像】

ナルギザ・エルキンバエバさん

生産者グループには顧客の観点から考えるように指導しています。製品を売るにあたり、市場にどんなニーズがあるかを知ることが重要です。最近では、みなの意識もだいぶ高くなりました。私たちはこれからダイナミックなビジネスに突入しなければなりません。市場のニーズに応えた高い品質の製品を量産できる体制を構築し、近隣諸国や先進国へと販売していくことでしょう。