いうまでもなく、『自分を操る超集中力』(メンタリスト DaiGo著、かんき出版)の著者はテレビなどでもおなじみの人物。 "メンタリズム"という、人の心を読み、操る技術を駆使する日本唯一のメンタリストとして知られています。そんな著者の新刊である本書のテーマは、タイトルにもあるとおり「集中力」。自身の実体験も踏まえつつ、集中力を科学的に高める方法を紹介しているわけです。

まず注目すべきは、集中力は持って生まれた才能ではなく、トレーニングによってさらに強化することができると断言している点。つまり集中できる人とできない人との差は、集中力を発揮する方法を「実践しているか・していないか」にあるというのです。

私は自分の身の回りにあるすべてのものに注意力を奪われ、その結果、なにひとつ集中できなかった状態から、目的からやるべきことを絞り込み、的を絞って集中する術を身につけたことで、集中力をコントロールできるようになりました。(「まえがき」より)

しかも、いったんその術を身につけると、疲れているときも集中力が持続するようになるのだとか。そして大切なのは、ひとつの行動にフォーカスし、ひとつずつ着実に習慣化していくことだそうです。きょうは第4章「集中力を自動でつくり出す5つの時間術」から、「時間術1 超早起き」にクローズアップしてみましょう。

朝のゴールデンタイムを自分のためだけに使う

著者によれば、脳は朝起きてから2時間の間にもっともクリエイティブな力を発揮するもの。そして、なかでも特に重要な30分があるのだそうです。それは、十分な睡眠をとり、朝食をとったあとの30分。この"ゴールデンタイム"は、1日のなかでもっとも集中して物事に臨みやすく、なおかつ自分をコントロールする力も高まっている時間帯。勉強など、なにかをはじめたいと思っているなら、この30分を有効に活用すべきだというのです。

そのために必要なのは、当然ですが早く起きること。具体的には、朝食後の30分から1時間をじっくりと自分のためだけに使えるようなスケジュールを組むことが大切だといいます。ゴールデンタイムであるこの時間を、自分のための勉強やトレーニングなどにあてることは、最高の自己投資になるといいます。

もし8時に家を出るのなら、6時に起きて朝食を済ませ、6時半〜7時半の1時間を自分のために使う習慣をつける。毎朝、そんな時間をつくることができれば、1年で365時間(=15日)。つまり早起きを続けることで、まるまる2週間分のクリエイティブな時間が手に入るということです。そして、そこで積み重ねた思考や体験は、将来的に大きな成果となって返ってくるわけです。

なお朝食後30分をピークとした集中力の高い状態は、そこから約4時間持続するのだそうです。つまり6時に起床した人なら、11時頃までが知的作業に向いた時間帯だということ。ただしその後、午後にかけては徐々にウィルパワー(意志力)を失い、クリエイテビティや集中力を発揮することが難しくなってくるもの。それは裏を返すと、集中力にとって睡眠時間がどれだけ重要な要素であるかの証明でもあると著者は記しています。(209ページより)

時間帯の使い分けには「正解」がある

経済的、社会的に成功している人たちと一般の人の睡眠時間を比較したアメリカの研究によると、成功している人たちは長時間眠っていることがわかっているのだといいます。彼らの平均睡眠時間は約8時間で、一般の人のそれは約6時間。つまり2時間の差があったというのです。

では、なぜ社会的に成功している人のほうが長く眠っているのでしょうか? このことについて著者は、取り組む作業に高い集中力が必要な人ほど、ウィルパワーが十分に回復するに足る睡眠時間が必要になるからだと主張しています。

4時半に起床する人が8時間眠るとしたら、20時半には寝なければならないはず。一般的な感覚からすればかなりの早寝ですが、「サーカディアンリズム」で考えると、これは非常に理想的な生活サイクルなのだそうです。サーカディアンリズムとは、原始時代から現在に至るまで、哺乳類がくり返してきた「日の出とともに朝起きて、日が落ちるとともに眠くなり、夜は寝る」という生活サイクルを通じてつくられたリズム。私たちの体の各機能は、このサーカディアンリズムに合わせて働くようになっているのだといいます。

社会的成功者の、4時半起床や20時半就寝といった生活サイクルは、どこか極端なようにも思えます。しかし、それは体にとって最適なリズムだということ。逆に深夜まで残業し、朝も出勤ギリギリまで二度寝するような生活サイクルだと、時差ボケのママ日常生活を続けるようなもの。そんな生活を続けていると体内時計が乱れ、不眠状態に悩むことにもなりかねないといいます。(211ページより)

朝、行うべき7つの行動

ところで、どんな朝を過ごせば集中力をつくり出すことができるのでしょうか? 早起きの実践者たちには、共通している行動があるのだとそうです。それは、起きたあと、ランニングやウォーキング、ストレッチ、スイミングなど、なんらかの手段で体を動かし、軽く汗をかいていること。早く起きることで確保できた朝の2時間のなかに15分程度の運動を盛り込み、脳を活性化させて集中力を高めているというのです。

なお著者は、こうした実践者たちの実例や脳科学などの研究所を読み込み、そこにメンタリストとしての知識を重ね合わせ、「朝、行うべき7つの行動」をまとめています。(214ページより)

1. 早起きして、朝食を摂る。

2. グリーンエクササイズなどで、朝日を浴びながら軽く汗を流す。

3. モチベーションの上がる話題や言葉、詩に触れる。

4. 毎日1つ、ノートやパソコンなどに日常の幸せへの感謝を書き留める。

5. 毎日、「今日が人生最後の日ならどうする」と自分に問う。

6. その日の計画を10分以内に立てる。

7. 短時間の瞑想をする。

(215ページより)

朝10分の作業で、1日が超効率的になる

上記の5.と6.は、長期と短期のスケジューリング。早起きしたときの頭はクリアな状態になっているため、「今日が人生最後の日ならどうする」と問うことで、この先の人生の目標を思い描くことができるというわけです。もし成し遂げたいことが浮かばないなら、まずは「自分がやりたくないこと」「この先、やるつもりのないこと」をはっきりさせることが大切。それだけで無駄な意思決定が減り、ウィルパワーの消費がなくなるというのです。また、朝のフレッシュな状態でその日のスケジュールを組み立てることは、その日1日を充実させるために必要な行動。

仕事の大半を、時間や順序が定められていないデスクワークが占めているビジネスパーソンも少なくないはず。突然のミーティングやクレーム対応などが入り込んでくることもあるだけに、あとから1日を振り返れば、なにをしたのかわからないということも少なくないでしょう。

しかし、そうやって失っている時間、集中力は長期的に考えると大きな損失。そこで、そのようなムダを省くため、毎朝10分ほど、その日の予定を考える時間をつくるべきだと著者は主張しています。会社に着いたら、最初になにからはじめるのか。何時をめどに終わらせるのか。次に取りかかる仕事はなにか。感情的になって判断が鈍ることのない朝の時間に、1日の時間をコントロールするための準備をするということ。(216ページより)

早起きで、人生のコントロール感覚を取り戻す

夜は新しいことに挑戦する意思力と集中力が残っていないもの。そのため、家に持ち帰って仕事をする、または新分野を学ぶための時間には向いていないといいます。しかし、静かに復習するには適した時間。そういう意味では、極端ながら「17時以降はもう集中しない」と決めてしまうのも悪くはないと著者。

夜は集中力が低下しているため、その時間帯を"学ぶ時間"に割り当てたとしても成果は望めないもの。しかしその一方、眠る前に目から入った情報は記憶に残りやすい性質があるのだそうです。そこで夜は復習けにして、集中力が必要なインプットは朝に回してしまおうという考え方。つまり、集中力を存分に活用した1日の使い方は、次の3ステップになるといいます。

・朝はインプットの時間

・昼はアウトプットの時間

・夜は復習し、定着させる時間

(221ページより)

これを毎日くり返し、仕組み化していくことが大切だということ。自分の人生において大切な意思決定、キャリアアップに関係するような判断はすべて午前中に終わらせる。そんな、早起きの朝方スタイルに変えていくことを著者は勧めています。(220ページより)


集中力の高め方を、他にもさまざまな角度から検証しているだけあり、とても実践的な内容になっています。そうであるだけに、「いまひとつ集中できない」という悩みを抱えている人にとっては、利用価値の大きな一冊だといえるでしょう。

(印南敦史)