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「I have no power ! No power !」
2016年6月19日、世界3大レースの1つ「ル・マン24時間耐久レース」(以下、ル・マン)の挑戦を続けるTOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)を襲った残り3分の衝撃。ドライバーが無線で「I have no power!」と叫んだ直後、クルマは最後の1周を残してリタイヤ。ポルシェに優勝をさらわれました。
受け入れがたい現実に戸惑いながらも、新しい技術、将来のクルマに必要な技術を磨き上げていくTGRのル・マンの挑戦は、2017年へと引き継がれましたが、では、掴みかけた優勝を逃した悔しさをチームスタッフはどのように克服し、モチベーションを高めて、再スタートを切ることができたのでしょうか。
そこで、ビジネスシーンでも起こりうる、予想できない出来事からチームを立て直す方法を探るため、あれから1年、2017年のル・マンに挑むTGR開発部部長、村田久武さんに話を聞いてみました。
衝撃の結末。再スタートに向けてチームを奮い立たせたものは?
TGRが参戦しているWECは、最新のテクノロジーと最先端のハイブリッド技術を競う耐久レースの世界選手権。なかでもル・マンは、24時間走り続けることから、クルマの耐久性・信頼性・安全性など、その真価が問われる世界最高峰の舞台。1997年に世界で初めて量産ハイブリッド乗用車「プリウス」を生み出したトヨタにとっては、ハイブリッド技術で優勝することは使命であり、さらなる技術を進化させるためにも、絶対に負けるわけにはいかない戦いです。
それだけに、2016年のル・マンでの衝撃的な結末は、計り知れない悔しさがあったはずです。では、チームを率いる村田さんは、リタイヤの瞬間に何を思い、どのように傷ついたメンタルを持ち直したのでしょうか。
勝っても負けても、次の朝はやってくる。だとしたら、やるべきことは…
村田さん:あの瞬間は「本当に申し訳ない」という気持ちでいっぱいでした。レースを戦っているのは、ドライバーやピットにいるスタッフだけではありません。研究スタッフやサプライヤーなど、サーキットにいた何十倍もの人たちが「優勝するんだ」という気持ちで1年間ともに戦ってくれましたからね。
ピットでは、ドライバーたちが「こういうこともレースではあるんだよ」とスタッフに声をかけてくれました。小さいころからレースでさまざまな経験をしているので、メンタルのリカバリーは早かったようです。でも私たちは、彼らの声に耳を傾けながらも、心は打ちのめされていました。
レース後、私はホテルのベッドに倒れ込むように寝てしまい、翌日の朝を迎えました。窓越しに見えるサーキットと深い森をボケーッと眺めていると、悔しさがジワッと沸いてきました。しかし、時間が経つと「勝っても負けても、次の朝は来る。勝ったとしても来年に向けた作業を進めなくてはいけない。どちらにしてもやることが同じなら、クヨクヨしている時間はもったいない、来年に向けて頑張ろう」という気持ちに少しずつ変わりました。
メンタル・コントロールは、自分で消化していくしか方法はない
村田さん: チームスタッフには、私がレースの翌朝に感じたことを話しました。でも、私たちの仕事はシビアなので、自分の人生をかけるつもりで本気でやろうと思わなければ務まりません。
だから、私はスタッフに話しかけますけど、最後は自分の中で消化して、ひとりひとりが腹に落ちるしかないんです。くじけないというと簡単ですが、「くじけないとは、どうしても優勝を勝ち取りたい」という強い思いです。2016年のル・マンで起こったことは、チームに喪失感を与えましたが、そこから、もっと強いチームになって、強いマシンをつくろうと、チーム全員がこれまで以上に感じたからこそ、立ち上がってくれたんだと私は思っています。
過酷なレースの現場だからこそ、人は育ち、鍛えられ、レベルが上がっていく。私はそう信じています。それが、トヨタのDNAなんです。
負けたことを自信に変える。チーム力とモチベーションは、さらに高まった
ル・マンでの結果を受けて、村田さんは直後に日本でレースを見守っていたスタッフたちに、メールを送ったそうですが、返ってきた日本からのメッセージは「俺たちはすでに来年に向かって走っているのに、何をメソメソしているんですか」というものでした。
その言葉通り、村田さんが率いるTGRを中心としたチーム・トヨタは、2017年のル・マンに向けて再始動しました。では、優勝に向けて取り組んだこの1年は、どのようなものだったのでしょうか。チームビルディングの視点から話を聞きました。
個の才を最大限に引き出し、チームとして積み上げることで、総合力は上がる
村田さん:ル・マンのレース後すぐにクルマをすべて解体して、止まってしまった原因を探りました。すると、ハイブリッドシステムなど主要な部分ではなく、ほんの些細な部品の信頼性の問題だとわかりました。
もちろん、起きてしまったことは憎みますが、その責任を人に取らせるようなことは絶対にしません。私は、スタッフひとりひとりの「天賦の才」をよく認識して、「できないところを伸ばそう」ではなく、「天賦の才を徹底的に発揮する」ことがチームを強くする方法だと考えています。レースの世界では、あらゆることを全方位で100点を取らないと勝つことができません。でも、チームのひとりひとりが尖った針となり「イガグリ」のようなチームであれば世界で1番になれる。
だからこそ、チーム全員の知識と経験のすべてを投入して起こしてしまったトラブルは、プロセスを徹底的に分析して、その結果をチーム全員が共有して、再発防止に、次のレースにつなげていくことが大事なんです。
ただ、私たちは、あらゆることを突き詰めてやってきたつもりでしたが、細部まで目を配っていなかった。本当の意味での強いクルマになっていなかったのは事実です。しかし、残り3分、最後の1周までトップを走ることができ、優勝する資格を得たこと。私たちがこれまでに積み上げてきたことが間違っていなかったことも事実です。単なる負けではなく、自信にもなったわけです。
「すべてやりきったのか!」を合い言葉に続けた1年
村田さん:この1年は「俺たちは、すべてやりきったのか」という言葉をチームとレースに関わるすべての人たちの合い言葉にしてやってきました。ミスをしないためには、人も技術も徹底的に鍛えるしかありません。
ル・マンでは、24時間のレースの中で、天候が変わり、接触も起こり、さまざまなトラブルに巻き込まれます。クルマを最後までサバイバルさせるためには、いかなる状況下でもチームとしてアジャストする必要があるわけです。そのための準備、シミュレーションに終わりはありませんが、「本当にやり残したことはないのか」「最後の確認をしたのか」「レースで起こるトラブルをどこまで想定したか」「スムーズに対応するためのマニュアルに穴はないのか」など、チームが一丸となって取り組みました。それは、クルマをル・マンに出荷した今も自問自答しながら続けています。
いよいよ2017年のル・マンがはじまる。そのときトヨタは
いよいよ、6月17日〜18日にル・マンでの戦いがはじまります。目前に迫ったレースを前に、村田さんにチームとしてル・マンにかける思いを聞きました。
村田さん:これまで積み上げてきたテストの性能目標値では、強くて速いクルマになっています。すべてのコンポーネントに与えられた目標値を達成できれば必ず勝てるはずです。しかし、その答えはル・マンにしかありません。
レースを単純に見ると、勝ち負けの世界に感じますが、ル・マンは、勝ちたいというモチベーションが、人も技術も磨き上げていくフィールド。トップでゴールを駆け抜けるまでは、これ以上やってもと言うことはありません。ですので、チームとして24時間どこまで集中力を高め、優勝するための準備を常にできるかだと思います。
また、2017年は、トヨタが世界初のハイブリッドカー、プリウスを発売してからちょうど20年となる記念の年。レースを走るクルマの主要な部分は、トヨタグループ各社と一丸となって開発を続けたので、その意味でも、優勝して、新しい歴史をつくりたいですね。
村田さんの話から、チームづくりやチームを再生するための、さまざまなキーワードが出ました。ただ、頭でわかっているだけでは意味がありません。現実に即応した対処が必要なときに、ぜひ役立ててください。
さて、2017年のWECでは、TGRがこれまで2戦2勝と好発進。第3戦となるル・マンでの初優勝にも大きな期待がかかります。レースの模様は、TGR公式サイトにて、スタートシーンやゴールシーンを含む計12時間、無料でライブ配信されます。抜きつ抜かれつの熱いバトルとともに、TGRのピットで勝利のために全力で戦うチームスタッフの姿にも注目してレースを楽しんでみてはいかがですか。
「ル・マン24時間レース」無料Webライブ配信
第1部:6月17日(土)21時〜25時
第2部:6月18日(日)13時〜23時(予定)
TOYOTA GAZOO Racingの公式サイトにアクセス。パソコン・スマホ・タブレットなどで視聴できます。
※両日程とも日本時間
WEC ル・マン24時間耐久レース|TOYOTA GAZOO Racing
TGR|TOYOTA GAZOO Racing
(文/香川博人、写真提供/TOYOTA GAZOO Racing)
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