ライフハッカー[日本版]ではこれまで2度にわたり、リクルートホールディングスが導入したリモートワーク=働く場所をオフィスに限定しない新しい働き方について紹介してきました。

前々回はリモートワーク導入の中心的な役割を果たす「働き方変革プロジェクト」リーダーの林宏昌さんにインタビューし、前回は実際にリモートワークをしている社員の方々にお話を伺いました。

3回目となる今回は、さらにリモートワークという働き方について理解を深めるために、ライフハッカー編集部でリモートワークを実践してみることにしました!

子どもが生まれたばかりの副編集長と、リモートワーク賛成派の部員が挑戦!

ライフハッカーは現在、6名の編集部員に加えて多くの外部ライターによって運営されています。そんな編集部員の中から今回は、副編集長の金本と部員の大嶋が代表してリモートワークを実践しました。

副編集長の金本は主にPR記事のとりまとめや制作を、英語に堪能な大嶋は海外メディアの翻訳記事や外部ライターによる原稿の編集作業を担当しています。

ちなみに金本は、この度めでたく第一子が生まれたばかりで、仕事の合間に育児のサポートができることは大きなメリットだと感じているようです。大嶋は都内のシェアハウス在住で、前回の取材以来、熱狂的(?)なリモートワーク賛成派です。

ライフハッカー編集部がリモートワークにあたって定めたルールは次の通り。

・労働時間は、通常の定時労働時間である10~19時で設定。

・やりとりは基本的に、メール・チャット・電話を使用。

・10時の始業と終業のタイミングで、編集部のグループチャットで一言かけること。

・業務に支障がなければどこで仕事をしてもOK

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金本は奥さんの実家へ。いつもとは違う自然あふれる環境でリモートワーク。

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大嶋はハンモックのあるコワーキングスペースでリラックスしながら作業。@コワーキングスペース Hammock

金本の場合は週の前半は自宅、里帰り出産に伴い週の後半からは奥さんの実家を仕事場としました。大嶋は自宅や図書館、コワーキングスペースなどを利用しました。

通勤で消耗しないことはなによりのメリット!

1週間という短期間でしたが、実際にリモートワーク(以下RW)を体験し、2人ともいろいろと気づきがあったようです。

2人が口をそろえて挙げたメリットは、なによりも通勤で消耗しなくて済む点。通勤もその支度もないという余裕から、朝から仕事がスムーズにはかどったようです。

子どもが生まれたばかりの金本は、「自宅にいることですぐに奥さんの手伝いができるのが良かった。また、仕事の合間にそうした手伝いや家事をこなすことで、気分転換にもなった」とのこと。

一方大嶋は、「仕事中誰かに声をかけられることがないので、作業を中断することがなく集中できた。オフィスと違って話し声などのノイズがないのは大きい」「ランチを自宅でつくれるのが良かった。オフィスだと外食が多くなるけど、自炊できるからコスト面でも健康面でもプラス!」などなど、いいことづくめだったようです。

リクルートホールディングスにリモートワークをスムーズに行うコツを聞いてみた

1週間実践をしてみて、あらためて2人にリモートワークについて賛成かどうかを聞いてみたところ、2人とも迷わず「賛成!」という答えを出しました。

とはいえ、実際にリモートワークを導入していくためには、それなりの準備も必要です。ということで、2人が抱いた感想や疑問点について、前回もお話を伺ったリクルートホールディングス働き方変革推進室室長の林宏昌さんと、自身もリモートワークを実践しているソーシャルエンタープライズ推進室CSR推進グループGMの白坂ゆきさんとともにふり返っていきました。

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(左)林宏昌さん、(中)白坂ゆきさん、(右)編集部大嶋

── 今回編集部では、RW中も通常の労働時間で仕事をするルールでしたが、通勤時間がなくなったことで朝早くから仕事を始められるなど、結果として定時が無意味に感じられました。やはり、リモートワーカーは時間ではなくタスクベースで管理・評価する方がいいのでしょうか?

:そうだと思います。ただし、タスク管理は人によっての見極めが大事だと考えています。たとえば、タスク管理をマネージャーも一緒にケアしないと仕事の質が下がる人たちもいます。その場合、リモート・対面関係なく、しっかりとタスク管理や納期の設定をすることが大事なわけですが、逆にスケジューリングがきちんとできる人たちに、RWだからといってタスク管理を強化するとなると、それはそれで生産性が下がることもあるんです。

── マネジメントする側の難しさも感じました。ライフハッカー編集部でいえばその役割は編集長の米田ですが、完全に部下に任せてしまうことで、管理せず放置しているようにも見えてしまいますよね。

:そうですね。そこは私たちも悩みました。重要なのは、個々が何につまずいて悩んでいるのかを読み取り、どんなふうに声かけをすれば効率が上がり、質が高まるのかということにフォーカスすることだと思います。そうなると、もはや「管理する」という考え方ではなくなりますよね。

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── リモートワーク中は、夕食後などに「ついでにあれもやっておこう」などと細かい作業に手をつけて、むしろオーバーワークになりがちという感想も出ました。仕事とプライベートの線引きはどのようにしていますか?

:難しいところですよね。基本的に私たちは今、法令通りに夜10時を超えるときは事前申請をするルールがあって、そこは仕切りを設けています。ただ、何時から何時までという区切りについては、ある程度個人の裁量に任せようという考えです。

たとえば、朝早くから始めて、夕方は子どもの塾の送り迎えをするなど、個々がうまく組み立てればいいと思っています。

働きすぎに関しては、正確に勤怠申請をしてもらうことを前提にしています。その前提で、定期的にPCの履歴と勤怠申請のログがずれていないかどうかモニタリングも開始しました。RW導入後も全体的に労働時間は減っても増えてもいない状況です。RWは、集中力が高まって仕事が効率化されるので、やってみると結構疲れると思います。

── 確かに、通勤準備がない分朝早く仕事を始められるので、夕方にはすでにかなり疲れていた、という感想もありました。

:そうですよね。仕事が効率化されると今度は、時間があったらやりたかったことに手を出し始めるものなんですよ。でもそんなときこそ、異業種の人と会って話をするなど、普段やらないことをやってみると良いと思います。そういったところから生まれてくる多様性が大切だとメンバーには伝えています。

── 全社員ではなく一部の社員がリモートワークをしている状況だと、電話対応や会議の準備など、出社している社員の協力が必須であると感じました。社内の協力体制を築くうえでのポイントはありますか?

白坂:私も子どもがいて育児をしながら仕事をしているのですが、林が築いたRWのシステムが軌道にのったポイントは、導入の初っぱなで役員以下、全員をもれなくリモートワーカーの対象にした点にあると思っています。

たとえば以前のように、ワーキングマザーだけにRWの権利が与えられて会社に残る人がフォローする、というような体制だと文句が出ることもあったと思います。今回、当社では全員がRWをする権利があり、また試験導入時には会社には週2日しか来てはいけないという振り切ったルールで始めたので、「当たり前」へシフトすることに成功したと思います

全員にリモートワークを選ぶ権利があることは新しいスタイルへのチャレンジなんだ、と気概を持って皆が取り組む空気に持って行ったことが大きかったと思います。

情報共有のための会議は極限まで減らす

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スカイプによる編集会議にチャレンジ!

── 今回、編集部でもっとも困難だと感じたことが「会議」でした。スカイプを利用してビデオ通話で会議を行いましたが、音声やオンライン状況が異なるため、あまりスムーズにいきませんでした。

:そうですよね。この点はネットワーク環境に依存する部分もあり、当社でもスムーズにいかないときもあります。

まず会議には大きく分けて3つあると思っています。アイデアを発散するもの、何かを決めるもの、それから情報を共有するもの。私たちは、情報共有のための会議については極限まで減らしていきたいと考えています。

情報共有の場合、現在社内で検討している資料は、すべてクラウドにドキュメントで上がっているようにし、相手にそのリンクを共有すれば済むこと。それでも確認したい点があるというときにだけ、時間を取って直接話したり、電話で詳しく伝えればいいと思うんです。

何かを決めるための会議についても、今後は会議の内容を録音して、会議に出ていない人たちも後から聞けるようにしていけたらと考えています。これなら後から別の作業をしつつ、たとえば1.5倍速にしてラジオのように聞けますよね。会議のオープン化は社内で情報を有効活用するうえで大事なのではないかと思います。

リクルートグループは、現在ワールドワイドで約38,000人の従業員がいますが、従業員たちのコミュニケーションをデータ化して検索できるようにすれば、多種多様な情報チャネルができるわけです。たとえばSlack(チャット)でのメンバー同士のやりとりを見て別の部署のメンバーが興味を持ち、そこからビジネスが広がっていく、などとなっていけば理想的です。

── 編集部でスカイプを使って会議したときは、通信環境が不安定なこともあり、タイムラグがあったり音声が聞き取りにくかったりとやりにくさを感じました。その点はいかがですか?

白坂:はい、私たちも同じような問題は抱えていますが、慣れてくると、たとえば「白坂です」と名乗ってから発言するといった、オンライン会議特有のスタイルが確立されていきましたね。

── 編集部では企画アイデアなどのブレストをやることが多いのですが、そうしたアイデアを発散させる会議はどうですか?

白坂:やはり体感として、アイデアのブレストは対面でホワイトボードに書きなぐりながらする方がやりやすいですよね。

なので私のグループでは会議日を特定の曜日に固めるなどの工夫をし、会社に来る日をグループメンバーで合わせて、効率的に仕事を進められるようにしています。

将来、通勤する日は"特別な日"になるかもしれない

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── 通信環境を充実させたり、カフェやコワーキングスペース等を毎日自費で利用するのは負担が大きい、という感想が出ました。RWをする社員の自宅の仕事環境については、ある程度までは会社が面倒を見ていますか? それとも、個々でやってくださいというものなのでしょうか?

:そうですねー。基本的には必要な設備があれば自分たちで用意してくださいというスタンスです。ただし、それぞれの事情で、自宅ではなかなか仕事ができないというケースもあると思うんです。たとえば、副編集長の金本さんのように子どもが生後間もないという状況の場合、子どもの泣き声などで仕事しにくいということも出てきますよね。

当社の中にも自宅では集中しにくいという人もいるため、現在、首都圏に12拠点ほどサテライトオフィスを設けており、今後も増やしていく予定です。将来的には1時間などかけて通勤するのではなく、全従業員が、提携する最寄りのサテライトオフィスに15分以内で行けるようなネットワークをつくりあげることを理想としています。

── それは素晴らしいですね。ちなみに、サテライトオフィスをシェアオフィスとして一般向けに貸し出す想定などもあるのですか?

:現在のサテライトオフィスは提携という形で進めています。そこはすでに他の会社さんともシェアしている状況です。将来的には、自分たちで構築していくことも考えていますが、一般にも一部開放できればと考えています。あらゆる業種のリモートワーカーたちが、自宅の最寄りにあるオフィスに集まるイメージです。

── RWが他社にも波及しやすくなるような、おもしろい試みですね。

:多くの会社でRWが取り入れられるようになれば、各地でのコワーキングスペースの創設など、さまざまな経済効果も考えられます。

── RWはなによりも通勤時間がカットできることが一番のメリットだと思います。特に金本のような子育て家庭にはとても大きなメリットがありました。

白坂:それは育児中の私も非常に共感できることです。通勤に小1時間かかることに加え、朝の準備や子どもの世話やメイクする時間を合わせると、少なくとも朝と帰りで計3時間、ワークタイムやその他にやりたかった用事に充てられることは大きいです。

:RWが進められないひとつの要因としてよくあるのは、来客があるので会社に行かなければならないというケース。でも実はそれってお互いに不便であるケースもありますよね。相手はわざわざ時間をかけて来なければならないし、迎える側もまた然りです。

でもRWが多くの会社で導入されていけば、テレビ会議に対応できない会社は相手から、柔軟性がなく、やりにくいとさえ思われてしまうかもしれないです。もちろん対面・同じ場所でしか実現できない価値があれば、しっかり会うことが前提ですし、その価値はなくならないと思います。

白坂:将来的にRWが普通になれば、電車に乗って通勤する日は、コストや時間をかけてわざわざ相手に会いに行く"特別な日"という認識になっていくかもしれませんね(笑)。


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編集部が経験したリモートワークについて、その先駆者であるリクルートホールディングスに話を伺ったことで、あらためて大きな気づきや収穫を得ることができました。

働き方変革プロジェクト」では、リモートワークに関する現在進行中の課題や取り組みについて、日々こちらのページで公開しています。リクルートホールディングスの他社に先駆けたこの取り組みを、引き続き注目して見ていきましょう。

こちらの動画では日本の「労働時間」にまつわる調査結果がまとめられており、興味深い内容となっているので、ぜひご覧ください。

働き方変革プロジェクト | リクルートホールディングス

(文/庄司真美、写真/木原基行<1~3,6枚目以外>)