仕事のスピード・質が劇的に上がる すごいメモ。』(小西利行著、かんき出版)の著者は、サントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」など多くのヒット商品を手がけてきたコピーライター/クリエイティブ・ディレクター。以前、『伝わっているか?』(宣伝会議)という著作を取り上げたことがあるので、おぼえていらっしゃる方も多いことと思います。

そんな著者による新刊のテーマは、「メモ」。メモは情報を書き留めるだけではなく、頭を整理したり、アイデアを出したり、資料の下書きをつくったりと、仕事のなかの大切な行動に関係しているのというのです。ここで重要なのは、メモがいい仕事をするうえで、次の5つのポイントに関わっているということ。

1. 整理(仕事の条件や要点を整理する)

2. 設定(課題を見つける。目的を決める)

3. 考察(なにが有効な解決策か考える)

4. 発見(新しいアイデアへたどり着く)

5. 指示(部下やチームに役割を伝える)

(「はじめに」より)

そして、この点を踏まえたうえでさらに大切なのは、「未来メモ」という考え方。いま聞いたことや見たことを残す「過去メモ」から、未来の自分に行動のきっかけを生む「未来メモ」へ、メモの取り方と使いかたを切り替えることが大きな価値を生むというのです。なお、未来メモには大きく分けて3つの種類があるのだとか。

1つめは「めとメモ」。

2つめは「つくメモ」。

3つめは「つたメモ」。

(38ページより)

そこで、これらの基本について、もう少し確認してみることにしましょう。

未来メモ1「まとメモ」

「まとメモ」とはその名のとおり、メモを使って情報を「まとめる」メモ術。情報は放っておくと、すぐにぐちゃぐちゃになってしまうもの。そこで、それらをわかりやすく整理したり、打ち合わせ中に出た大事な言葉や発見を使いやすくまとめる、「左脳的なメモ」なのだそうです。

いいかたを変えれば、乱雑で使えない情報を、わかりやすく「使える情報」に変えるためのメモ。簡単なメソッドをおぼえるだけで、仕事が大きくはかどるようになるのだといいます。

ここで紹介されているのは、アイデアに関しての必読書として知られるジェームス・W・ヤングの『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)。同書のなかでは、アイデアをつくるうえで最も重要な第一段階の作業として、「資料集めとその資料に手をかけて整理することの大切さ」が紹介されているというのです。

つまり「まとメモ」こそが、この第一段階のメソッドだということ。記号や吹き出しを加え、情報を「使える情報」として整理することによって、仕事の効率を何倍にも上げ、アイデアをつくるベースも生み出せるのだとか。

その構成要素は、「3つの『◯』」「矢印『←』」「記号『VS、?、◯×、☆、⇔』」「吹き出し」、そして「デジメモ検索」。

1. 「これは重要だな!」と思った情報や文章に「◯」をつけ、見るべきポイントを明確にする。

2. 矢印を使って「ここから考えればいい」という順序を明確にし、要らない情報と必要な情報を分け、なにがいちばん大切なのかをはっきりさせる。つまり、「秩序」をつくる。

3. 思いついたことを記号で残し、仕事を効率化させる。

4. 吹き出しを使い、未来の自分に「こう考えてね」「ここを解決してね」という「調理法」を残しておく。

5. EvernoteやGoogleドライブなどのデジタルメモを利用し、必要な情報を一発で「検索」して取り出す。

これらを駆使するということ。情報を整理したり、考えをまとめる方法を知るだけで、いつものメモの効果が格段に上がるという考え方です。(39ページより)

未来メモ2「つくメモ」

「つくメモ」は、アイデアをつくるメモ術。新しい発見を生み出すときや、ビジネスの打開策を考えるときなどに効果的なのだそうです。具体的な方法は、図や絵を多用すること。そうすることによって視覚的に右脳を刺激しながら、新しいアイデアを生み出すことができるのだといいます。

「つくメモ」をおぼえると、驚くほどアイデアが考えやすくなり、やがて1時間で100個のアイデアをつくり出すことすら可能になるのだとか。

メモを使って「新しい組み合わせ」を生み出すのが「つくメモ」の役割。「マンガ」を通じてアイデアの目的を明確にするメモや、自分の仕事に「ハードル」をつくってアイデアを考えるメモなど、おもしろいアイデアを発想することが可能。誰にでも楽しく、クリエイティブな仕事ができるメモ術だといいます。

「つくメモ」を成立させているのは、「ハードルメモ」「マンガメモ」「ブラック三角メモ」「ホワイト三角メモ」「つなぎメモ」「あまのじゃくメモ」の6要素。

1. 「ハードルメモ」によって目的を明示し、越えるべきハードルを生み出すことで、考えるきっかけを生み出す。

2. メモにイラストやセリフを追加することで、メモのなかに共感できるポイントを増やす。

3. 「ブラック三角メモ」にそのテーマの「不満」を書き出すことで、「なんとかしてほしいこと」=「隠れニーズ」を導き出し、それを解決するためのアイデアを考える。

4. 「ホワイト三角メモ」を通じ、ターゲットの好みから「隠れニーズ」を探り、時代にウケるアイデアを生み出す。

5. 思い浮かんだことを「←」でつないでいき、答えの方向を探す(「秩序」の先に「答え」を導き出す)。

6. 多くの人が考える方向の逆、つまり「原因→結果」ではなく、「結果→原因」で発想する。

これらが、「つくメモ」の基本的な構造。根底にあるのは、アイデアを考えるのは難しいことではなく、「楽しい」という考え。つまり、クリエイティブな発想は誰もが手にできる「技術」だというわけです。そして、その技術を使えば、誰もが精度の高いアイデアをつくれるということ。(40ページより)

未来メモ3「つたメモ」

3つめの「つたメモ」は、「まとメモ」「つくメモ」で生み出した内容を、わかりやすく人に伝えるためのメモ術だそうです。チームで仕事をする人、上司や部下と仕事をする人、社外の人と連携して仕事をする人などにオススメなのだとか。

仕事には、多くの人たちと連携しながら進めることがたくさんあるもの。そんななかで最も大切で、それでいて難しいのは、チームや得意先との「意思疎通」。そこで、その「意思疎通」を上手く行かせるためのメモ術として考案されたのが「つたメモ」だというのです。

「つたメモ」は、「『見出し』メモ」「図メモ」「スピーチメモ」から成り立っているもの。

1. メモが読みたくなるような「見出し」をつけることによって、企画書や資料を「伝わりやすく」する。

2. 伝え方に迷った場合は、図を書いて示す。

3. 事前に数枚のメモを用意し、原稿を読まず、まっすぐ向いて話す。スピーチがうまくなるメモ術。

つまり「つたメモ」の目的は、「メモを使って、もっと伝わるようにする」ということ。(42ページより)


とてもシンプルなことのようにも思えますが、「まとメモ」「つくメモ」「つたメモ」それぞれに明確な役割があり、しかもそれらを使いこなすことによって、大きな効果を生み出すことができるわけです。どれも著者本人の経験から生まれたメモ術だそうなので、そこには説得力があります。

本書内では各メモ術についてさらに詳しく、そしてわかりやすく解説されているので、興味のある方はぜひ手にとってみてください。

(印南敦史)