「常識を覆せ、わたしたちの考えるみらいの大学」をテーマに、学生と社会人が一堂に集まって行われたアイデアソン『大ガッコソン!』。横浜と神戸で2日間にわたって行われた予選から、選りすぐられたアイデアが決勝プレゼンへと駒を進めました。決勝での各発表のレポートをお届けします。(予選の様子はこちら 横浜会場神戸会場

さまざまなアイデアが並びましたが、共通して意識されていたのはAIの進化です。2045年には人間を越えるAIが誕生するという予想がある中、2030年の時点でもかなりの仕事がAIのものになっていると考えられます。人間が必要とされる場が減りつつある中で、若者は何を学ぶべきなのか...? その問いに対して、答えを出そうとする案が並びました。160329_gakkoson2.jpg審査員を務める、富士通株式会社の執行役員常務・松本端午氏(左)と執行役員専務・小野弘之氏(中央)、九州大学名誉教授の村上和彰氏(右)。

決勝の会場となったのは、東京・蒲田の富士通ソリューションスクエア。各チームは予選のあとの2週間で、アイデアをさらにブラッシュアップしてきました。審査基準は読み(未来への洞察)、書き(ビジョンの表現力)、そろばん(データの裏付け)の3つ。アイデアの面白さだけでなく、その実現性を検討するリサーチ能力も評価の指標です。

地域コミュニティの中心としての大学の可能性

『大ガッコソン!』グランプリを見事に射止めたのは、神戸会場の最優秀賞チーム・知恵袋I。「学生から見たメリット」にフォーカスされた発表が多い中、地域と大学が相互に関わるサイクルを提案しています。

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アイデア|知恵袋I

制作チーム:チーム知恵袋I

地方の大学が相互に協力しあい、コンサルタントとして地元の課題の解決に取り組む。その過程そのものを授業とし、単位の対象とするアイデア。

地方の人口が減少し、労働の一部がAIに取って代わられていることを前提に、発想力/企画力/コミュニケーション/探究心、といった総合的な能力を向上させることを目指す。また、課題を通じて幅広い交流を行い、地域に精通した人材を育成できる。

発表の中では寸劇が行われ、「観光促進を進めたい」という旅館のオーナーの要望(課題)に対して、大学は学生からなる複数のチームを編成し、教員の指導のもとコンペを行わせる...というイメージが提示されました。

同じテーマに沿って、複数のチームが解決策を考える。アイデアソンにも似たこのサイクルを回すことで、大学を地元コミュニティの中心として機能させられるというこのアイデア。審査員からも、「コミュニティに貢献することは、大学の最高学府としての役目を体現している(松本氏)」「データをもとに地域の課題を汲み上げるシステムはすでにあるが、それを教育と組み合わせたのがよい(村上氏)」と高く評価されました。

VRをフル活用するとフィールドワークも変わるかも?

横浜会場で最優秀賞となったアイデアは、AIと並んでもうひとつ大きなテーマとなったVR(仮想現実)技術に焦点を当てたものです。

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アイデア|VRを用いた疑似体験授業

制作チーム:めがねっ娘

より発達したVR技術を授業に取り入れ、場所と時間を越えたフィールドワークを行うというアイデア。雄大な自然、現実の戦争、歴史上の1シーン、さまざまなを空間まるごと再現して教材とし、体験にもとづいた教育を行う。

このチームのプレゼンはかなり変わっていました。VRを表現するため、観客全員に目を閉じさせ、朗読と音楽でシチュエーションを説明していきます。また、滝のシーンでは霧吹きやうちわで飛沫を感じさせるという小技も。ビジュアルを省いて聴衆の想像にまかせることで、VRを体感させるというアクロバティックな手法でした。

グランプリには至りませんでしたが、発表方法のオリジナリティという点で群を抜いていたように感じます。

教育の一面を鋭く切り出したアイデア

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アイデア|洗脳で夢を実現する

制作チーム:#ロッキー

大学入学時に本人の能力や適性を判断し、洗脳教育を施すという過激なアイデア。将来像の候補(職業)を3つに絞り込んだうえで1つを選び、選んだ職業の専用カリキュラムが用意される。また、残り2つの職業に対する意欲は「削除」される。

将来どの道に進めばよいのか分からない学生を導き、合わない職に就いてしまうことを予防、仕事への満足度を高めることができる。

「洗脳」というキーワードに反射的に反発しそうになりますが、教育も一種の洗脳と受け取れば、ある程度は納得できる...かもしれません。ドイツでは10歳のときに職業教育と高等教育がわかれるそうですが、そのシステムをさらに強力に押し進めたアイデアです。

横浜会場の予選では全体的に「尖った」アイデアが並んだのですが、このチームはとくにその傾向が顕著でした。予選で唯一、優秀賞と参加者賞の二冠を達成しています。

データの山の中から未来を探す

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アイデア|あなたの可能性マッチング

制作チーム:まっちんぐマチコ先生

データが莫大に増えていく近未来において、いままで受けてきた授業、読んできた本、旅行した場所といったライフログをもとに、教育・進路のガイドを行うアイデア。

目標とする人物像と自分、それぞれのライフログを比べ、受けるべき授業を案内する。また、自分のログをもとに、マッチしている進路も提示する。授業を行うのは大学内の講師に限らず、必要なら大学外からもメンターをマッチングできる。

チーム・#ロッキーと雰囲気はかなり違いますが、ビッグデータに基づいて進路をガイドする、という点で共通しているアイデアです。学生たちの進路選択に対する関心の高さがうかがえます。

この発表では、学生が収めた学費を運用することで、地域の強力を仰ぐ、他の大学と連携をとるなど、資金の流れを強く意識しているのが印象的でした。

情熱こそが道を切り開く。追加の発表枠をもぎとったチーム

決勝プレゼンに出場するのは横浜、神戸それぞれから2チームという予定でしたが、とあるチームから「予選のあともアイデアをブラッシュアップし続けたので、発表の場を与えてほしい」との申し出があったそうです。

あしたラボUNIVERSITYは自発性を重視するイベント。そこで、急遽「情熱枠」として2つのチームが追加の発表を行うことになりました。

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アイデア|きっかけアーカイブ

制作チーム:アーバンシンドローム

授業のほとんどがオンライン化するであろう未来に、さまざまな「体験」をVRで追体験できるデータとして、アーカイブしておくというアイデア。情報とともに選択肢が増えていく中で進路に悩む学生が、やりたいことを見つける、実行に移す「きっかけ」を得るために利用する。

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アイデア|The World Assessment

制作チーム:チーム迷走中

コミュニケーション力や想像力など、AIとは異なる方向の能力を伸ばすため、学力に限らずさまざまな活動を評価対象とするアイデア。授業に加えてアルバイトや課外活動、インターンシップ、趣味などもデータ化し、教員とAIがそれぞれの視点で評価・アドバイスしていく。データには企業など人材を必要とする組織もアクセスすることができ、リクルーティングの場としても機能する。

これからの教育はひとりずつ違うものに

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2014年に引き続き、さまざまなアイデアが飛び交った「あしたラボUNIVERSITY」のアイデアソン。「小学校から大学まで、いままでの日本の教育は画一的なものでした。これがICTで変わっていく、というのが今回のテーマの背景にあります。」と村上氏。今まではみな同じようなカリキュラムで学んでいましたが、ICTの普及とともに学習は個人にカスタマイズされていく―そんな未来を感じさせるイベントでした。

今年は2つの会場をウェブでつなぎ、交流させながら同時にイベントを開催するというチャレンジがありました。これからもより「アイデアフル」な形を求めて、さまざまな形のイベントが行われるでしょう。

あしたのコミュニティーラボでは、大学に限らず図書館、酒蔵、伝統工芸など、さまざまな人々とコラボレーションを行うオープンイノベーションを推し進めています。身近な世界がアイデアでどう変わったのか、『あしたのコミュニティーラボ』をチェックしてみてください。

あしたラボUNIVERSITY|あしたのコミュニティーラボ

(文/金本太郎、写真/大塚敬太)