道端にお金が落ちているのを見つけたら「ラッキーだ」と思うでしょうが、本当は、自分の観察眼を喜ぶべきなのかもしれません。これまでもさまざまな分野の研究者が、普通の人が「幸運」として片づけてしまう事象に対して、有効かつ数値化できる特徴を見つけ出そうと取り組んできました。そうした研究の多くは、私たちが「幸運」だと思うような事象には、確率よりも心理的作用のほうが強く働いていると結論づけています。つまり「幸運」とは、新しいチャンスに対して柔軟な姿勢を持ち続け、偶然の中に潜むパターンを見抜く努力を怠らないという、人の積極的な姿勢そのものなのです。では、最新の科学研究の成果をいくつかご紹介しましょう。

半か丁か

コインを4回投げて、立て続けに表が出ました。「次はきっと裏が出るはず」と思うでしょう? 答えはNoです。表か裏かの確率は依然として半々のままなのです。毎回毎回、何度やっても、この確率は変わりません。心理学ではこれを「賭博者の錯誤」と呼びます。米国科学アカデミーの機関誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に2015年3月に掲載された研究論文によると、私たちの脳はこの手のパターンを見つけたがっている可能性があるそうです。論文の共著者の1人で、テキサスA&M大学医学部で微生物病原学および免疫学を専門としているYanlong Sun教授は、「ヒトの脳の主な機能は、実生活の中の不確実なものを処理して、規則性を見つけ出すことです」と述べています。

Sun教授によれば、私たちのニューロンは自然にそうしたパターンを検知し、そのタイミングに対して特別の注意を払うそうです。ニューロンは、交互に起きるパターンを好みます。それは脳が、統計的に不自然なパターンを補正するために「平均値へ回帰する」手段なのです。「私たちの研究は、脳がおそらく、これまで私たちが思っていたよりも賢いということを示しています。というのも、非常に捉えにくいけれど、自分を取り巻く環境においては重要な統計的構造を、脳は自動的に拾い出せているからです」

ただしSun教授自身は、こうした脳の機能を理解してもなお、幸運全般についての個人的な考え方はほとんど変わらなかったと言います。「科学者としても1人の人間としても、幸運の存在を強く信じています。それは、自分で操作したりもたらしたりすることができない何かです」

幸運の連続

2個のサイコロを投げて争う「クラップス」や、ルーレットなど、偶然に左右されるゲームで賭けをする時、実は「賭けをする行為」そのものによって、自分の勝算が変わってしまいます。2回続けて賭けに勝った人が次も勝つ確率は57%ですが、2回続けて負けた人が次に勝つ確率はたったの40%です。なぜでしょうか? 2014年に発表されたある研究によると、人はこうした場合、自分の勝率が平均値に戻るのではないかと不安に襲われます。つまり、1度賭けに勝つと、次の勝負では負ける可能性が高いと感じるので、勝ちが続いている間は、より手堅い賭け方を選ぶことで、リスクを下げようとするのです。

こうして、賭けに勝ち続けている人はより安全な賭け方をするので、さらに勝ち続ける可能性が高くなるでしょう。逆に、賭けで負け続けている人は、何とか勝とうとしてよりリスクの高い賭け方をしてしまい、結局さらに負けてしまうことになるのです。賭けの対象であるイベント(例えばサイコロやルーレットで何が出るか)の確率は常に一定ですが、人がそれにいくら賭けるかは、過去の結果の影響を受けてしまうのです。

迷信

指を重ねて十字架のような形にしたり、木をたたいたりといった「幸運のおまじない」。こうした迷信の由来は知らなくても、実行している人はかなりの数います。ですが、いくつかの研究から、こうした迷信にも、たしかに効果があるかもしれないことがわかりました。ただしそれは、私たちの考えているものとは違った形でですが。

例えば、2010年のある研究では、ゴルファーに「あなたが今使っているのはラッキーボールですよ」と伝えたところ、「これまで皆が使ってきたのと同じボールですよ」と伝えられたゴルファーに比べて、明らかに成績が良くなった、という結果が出ました。同じ論文の中で、被験者にアナグラム(単語や文中の文字をいくつか入れ替えることによって全く別の意味にさせる言葉遊び)を解いてもらう実験もしています。自宅から「幸運のお守り」を持参して良いと言われた被験者は、良い結果を出しました。

研究チームはこの結果について、手近にお守りを持っていた人たちは、何か自分以外の力の助けを借りているかのような、力強い感覚を得られたため、問題を解くためにより長い時間粘れたのだろう、と仮説を立てています。ちなみにこれは、アルコール中毒者の互助会「アルコホーリクス・アノニマス」で、参加者が禁酒を続けられるよう励ますのに使われる論法と同じです。人は、「ほかの誰かが自分を助けてくれている」と信じられれば、力を与えられた気持ちになり、取り組んでいるタスクの成果にも実際に良い影響が出るのです。

運の良い人

幸運は、たまたま「起きる」ものではありません。自分のことを運が良いと思っている人もいますが、そうした人の場合も実は、自分では何もしていないのに幸運が勝手にやってくるわけではないのです。英ハートフォードシャー大学で心理学を教えるリチャード・ワイズマン教授は、不運な人と幸運な人の違いは何かを解き明かすため、数多くの実験を行ってきました。

そのうちのひとつでは、被験者に対し、新聞を渡して読むよう指示しました(被験者たちは、自らを幸運だ、または不運だと思っている人たちでした)。ワイズマン教授はその新聞の中ほどのページに、1面の半分ものスペースを割き、大きな文字でこんなメッセージを載せていました。「実験スタッフに、これを見つけたと伝えれば、250ポンドもらえます」。大きなスペースであったにもかかわらず、このメッセージを見つけられた人と、見つけられない人がいました。そして、自分は幸運だと回答していた被験者の方が、高確率でこのメッセージを見つけたのです。逆に自分を「不運」だと思っている人は、いつも何か不安を覚えている様子が見受けられ、そのために観察力が損なわれたようだ、とワイズマン教授は記しています。

なお、ワイズマン教授は自身のウェブサイトに、幸運を得るための「4原則」を掲げています。どの原則も、突き詰めれば、「新しい経験を積極的に受け入れること」「チャンスを額面どおりに受け止めて、裏を勘ぐったりしないこと」と言い換えることができるでしょう。

セレンディピティ

旧友とばったり出くわすことは単なる偶然かもしれませんが、それがきっかけで仕事の話がまとまって高い収益を得られたり、あるいは、ロマンスが再燃したりするかもしれません。シティ大学ロンドンで情報相互作用を教えるStephann Makri博士は、こうした「セレンディピティ(serendipity)」の正体を突き止めようと、数々の研究を行ってきました。Makri博士が判断の根拠としたのは「人々がそれをどのように受け止めているか」です。

Makri博士は次のように述べています。「私は、幸運という言葉が指すものは、人によって異なると思っています。中には、セレンディピティと同じ意味で使っている人もいるでしょう。しかし、この2つをあきらかに異なるものだと考える人たちもいます。こうした人たちは、幸運については、自分ではまったく制御できないし、私たちが何をしようと、幸運に影響がおよぶことはないと考えています。その一方でこうした人たちは、セレンディピティは制御できないものの、影響をおよぼすことは可能だと考えています」

Makri博士は、2014年に発表した研究の中で、クリエイティブな仕事をしている14人に対し、セレンディピティというべき「出会いのチャンス」を高めるために、どんなことをしているか尋ねています。「彼らの答えは、毎日のルーチンにバリエーションをつけたり、異なる環境の中で違う人と仕事をしたり、仕事場の模様替えをしたり、普段やっていることの方法を変えたり、といったものでした。どれも、同じことの繰り返しを避けるための方法です」とMakri博士は説明します。私たちは何かラッキーな出来事について振り返るとき、「それで人生が良い方向に変わった」としみじみ感じ入ることが少なくありません。Makri博士はこうした感慨を「洞察」と呼んでいます。

偶然の出会いを制御することはできなくても、良い出会いにつながりそうな特定の時と場面に身を置くことについては、自分の行動によって影響をおよぼせます。オープンで、積極的で、自発的な姿勢の人は、与えられたチャンスに感謝してそれを活かす傾向が強くなるのです。

THE SCIENCE OF LUCK|Popular Science

Alexandra Ossola(訳:風見隆/ガリレオ)

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