この世界線ならば、なかったことにしたくない。

何気なく過ごしているようでも、私たちは日々「意思決定」を行っています。仕事上の大事な判断はもちろん、同僚とのランチで入るお店や、のどが渇いた時に飲むものまで、内容の大小に拘らず決断をしながら生きているのです。また、ライフハッカーでもたびたび取り上げているように、「決断疲れ」という概念もあります。「1日の中で判断ができる量は決まっている」という考えです。つまり、決断疲れを防いでより良い意思決定をしながら生きるためには、物事の自動化を試みたり、あらかじめ判断しておいたりすることが有効といえます。

背中を押してくれる「ゆるいデータ」が寄り添う未来

さて、今回はすこしだけ未来のことを想像させてくれる対談記事より、私たちの「意思決定」を支援してくれるテクノロジーを紹介します。国内外のイノベーション事例を取り上げているメディア「Mugendai(無限大)」にて、多くの人気アニメやゲームを手がけるクリエイター・志倉千代丸氏と、機械学習やデータマイニングなどの研究を行っているIBM東京基礎研究所所長・森本典繁氏が対談をしています

志倉氏が手がけ、ゲームをもとにアニメ化までされた人気SF作品『Steins;Gate(シュタインズ・ゲート)』に、IBMが過去に発売したPC「IBM5100」をモチーフにしたキーアイテムが登場することがきっかけとなったこの対談。『シュタインズ・ゲート』に絡め、「過去にメールを送るには」「デジタルの次に来るもの」「脳の仕組みを真似たチップの研究」など、読んでいるだけでワクワクする話題が展開しています。

中でも注目したいのが、「ゆるいデータ」がこれからの私たちを助けてくれる存在になるという話です。志倉氏は「AR彼女」という例えで説明しています。

志倉 (前略)たとえば渋谷にいて、グルメサイトを見て、この辺で美味しいお店......と検索すると300件くらい出てきてしまう。(中略)ここで、僕らが作っているゲームのエンターテインメントの部分が役に立たないかって思ってまして。たとえば、技術としては新しいものではないけど、ARで街に出てスマートフォンをかざすとアニメの女性キャラクターが出てきて「次はあっちいってみようよ」「今日はパスタ食べようよ」と誘導してくれるんです。(中略)

AR彼女は体調管理をしたり、何百件とある周囲の飲食店店舗から2~3件に絞り込んで営業中のお店にちゃんと誘導してくれると。もし店が開いていなくても、キャラクターが「ごめんね」と画面の中で謝ってくれるだけで許せてしまう。

森本 確かに飲食店などを検索するときに、こだわりがあって探すわけではないケースが多いですよね。「何でもいいけど」って思いながら何となく和食を探しているとか。そのときに誰かが「うなぎ食べたい」と言ったら「それいいんじゃない」となったり。
志倉 誰かにちょっと背中を押してほしいんですよね。昔の言葉で言うともっとファジーな、ゆるいデータでいいんですよ。キャラクターの個性があればゆるいデータでも許されるんですよね。

自然な対話から答えを導き、意思決定を支援するシステム

この「ゆるいデータ=AR彼女」のように、人との会話を解釈しながら、あらゆる情報から学習し、自然な対話を通じて意思決定を支援してくれるシステムを「コグニティブ・コンピューティング・システム」と呼ぶそうです。すでに実稼働しているコグニティブ・コンピューティングの先駆けとしての存在に「IBM Watson(ワトソン)」があり、ライフハッカーでも以前にも取り上げています。

ワトソンの優れたところの1つに、「質問をするとその意図を理解した上で、最適な答えを出してくれる」ことがあります。自然な言語を理解し、ワトソン自らで仮説を立て、いくつか解答の候補を挙げると共に、それぞれの正確性を評価して私たちの意思決定を支援してくれるのです。2011年にはアメリカの人気クイズ番組『Jeopardy!(ジョパディ!)』にて人間のクイズ王に勝利し、話題にもなりました。

話を戻して、以下は志倉氏と森本氏の対談より。

志倉 IBMのワトソンも多くのユーザーが使えるようになったら、様々なユーザーからこれやって、あれやってと頼まれて、ワトソンくんは超大忙しじゃないですか(笑)。

いくらワトソンでも、そこまでの並列処理をやってのけることは不可能だろうと......かと思ってたら、それが一般にAPIが公開されるという。そうなるとワトソンとグルメサイトや、クイズとはまったく文化圏の違うデータベースがコラボレーションすることにもなってくる。だったらいま言ったことは、いま見えている技術だけで十分実現可能だと思うんです。

森本 そうですね。そのアイディアってお客さんに合わせてカスタマイズするというよりは自分がゆるくインタラクトする、何かそのデータベース自体に人格があるっていうイメージですよね。だからワトソン1号2号3号......とあって、それぞれが違う得意分野、性格をもっていたりして、バックエンドの知識を偏らせるわけですよね、ある意味。(中略)知識を提供してくるエージェントなりアバターなり自身が、人格を持っているようなイメージだと。
志倉 一回やってみたいですね。おバカなキャラクターであれば本来はワトソン級の脳はいらないんだけれども。ただ、ゆるい会話の中でなんとなくお店に連れて行ってもらって、あるメニューをオススメしてもらったら、少なくともその作品のファンは楽しめるんですよね。その一歩をどこかでできないかなって考えていますね。

『シュタインズ・ゲート』新作ムービーが、僕らの日常に?

141031el_psy_kongroo_2.jpg

そして、志倉氏の話した「その一歩」ともいえる試みが実現しています。コグニティブ・コンピューティングが登場する世界が描かれた『シュタインズ・ゲート』のオリジナルショートアニメムービーが、IBMとのコラボレーションによって制作されたのです。以下、3分30秒ほどの作品ですが、コグニティブ・コンピューティングでどのようなことが可能なのかがわかりやすいかと思います。

たとえば、料理が苦手な人でも、今ある材料から美味しくつくれるようにナビゲートする。

たとえば、交通情報に「使用者の心情」も掛けあわせて、最適なルートを導き出してくれる。

このようなことが、コグニティブ・コンピューティングによってさらに可能となってくるのでしょう。このコラボレーション・アニメ『Steins;Gate 聡明叡智のコグニティブ・コンピューティング Sponsored by IBM』は現在2話まで公開されていますが、今後もこちらの特設サイトで順次新作も発表予定とのこと。

そして、下記リンクからは志倉氏と森本氏との対談全文が読めます。森本氏が「先ほどから、ずっと目から鱗の状態が続いている」と話すほどに、未来の姿を想像できる刺激的な内容となっています。

【対談】創作世界とエンジニアリングの交差点――志倉千代丸氏×IBM森本典繁所長 | Mugendai(無限大)

Steins;Gate Sponsored by IBM 聡明叡智のコグニティブ・コンピューティング

(長谷川賢人)