「書くこと」は、考えをクリアにしたり、よりよく記憶したり、目的を達成したりすることに役立ちます。でも、なぜ「ペンはキーボードよりも強い」のでしょうか。「書くこと」の科学や心理学から考えてみましょう。

生産性の専門家やライターの多くは、以前から手書きを支持してきました。実際、多くの人がやることリストを作るには紙がいい(英文)といいますし、愛用のペンにこだわりを持つ人も多いです。書くことはなぜ効果的なのか

フリーライターのPatrick E. McLean氏は「A Defense of Writing Longhand(手書きのすすめ)」という記事の中で、詩的な書き方をしています。「ペンを使うと野生のままの言葉が次々に出てくるのに、キーボードは間接的な感じで、気が散りやすい」。

こうした考えを、単なるロマンチシズムと思われるかもしれません。何世紀にもわたって、ペンと紙は生活のいたるところで使われてきたから、より快適で生産性が高いと感じられるだけ。タイピングの方がもっと速く書けるし好きという人だっているはずだ、と。たしかに、必要に迫られて高速でタイプする人が増えているし、手書きの技術は廃れつつあります。

ですが、「書くこと」は実際に学習や目標達成を助けるといくつかの研究で確認されています。カリフォルニアにあるドミニカン大学(Dominican University of California)の心理学教授Gail Matthews氏は、しばしば引用されるが根拠は乏しいといわれるハーバード/エール大学で行われた目標に関する研究を補うために、「書くこと」と「目標を共有すること」の効果を科学的に証明したいと考えました。そして、目標を設定するだけの人と比べて、目標を紙に書き、誰かに伝え、説明をし続けた人は、達成の可能性が33%高いことを発見しました(もっとも、タイピングも同じように効果的なはず、という意見もあるでしょう。それについては、下記にある「手書きがタイピングよりいい理由」を参照してください)。ほかの研究でも、外国語の学習には手書きが効果的とわかっていますし、ノート取りに関する研究でも、学生の記憶と成績によい影響があったことが明らかになっています。

こういった調査結果をあたりまえと感じる人もいるかもしれませんが、「目標を手で書くこと」になぜ効果があるのか、その仕組みに興味がある人のために説明してみましょう。書くという行動は、脳幹の網様体賦活系(RAS)にある多くの細胞を刺激します。RASは、脳が処理しなければならないあらゆるものの中で、その瞬間に積極的に注意を向けているものを、より重用視するフィルターとしてはたらきます。そして、書く動作は、「その瞬間に積極的に注意を向けているもの」をつくりだすのです。「書くこと」と生産性について研究し、アメリカの複数の大学で教壇に立つHenriette Anne Klauser氏は『Write It Down, Make It Happen(紙に書いて実現する)』の中で次のように述べています。

書くことでRASが刺激されると、大脳皮質に『目覚めろ! 注意を払え! 細かいところまで見逃すな!』という信号が送られます。目標を紙に書くと、脳はそれを本人に深く認識させようと働きかけ、周囲の様子や兆候に気づくよう、絶えず注意を呼び起こすのです。

手書きがタイピングよりいい理由

読み書きの体系と、その学習プロセスとの関係を研究しているVirginia Berniger博士は、キーボードではなくペンを使う方が、子供たちのライティング能力(書く量、速さ、センテンスの完璧さ)が一貫して優れていることを発見しました(もちろん、対象となったのは、一方のツールに強い好みを持たない子供たちです)。また、米Lifehackerでは以前、手書きと認知能力を関連付けた「Wall Street Journal」の記事を取り上げました。この中で引用された研究では、新しいシンボルや図形を学習する際に、これらを手で描いてみた人の方が、タイピングした人よりも優れた結果を示しました。

Berniger博士はこの違いについて、「文字を書くために手を使うと、脳がより活発にはたらくせいではないか」と指摘しています。タイピングでは、どれも同じようなキーを押して文字を選択するだけですから。

もちろん、あなたにとってペンとキーボードのどちらがいいかは、これまでの体験や好みによって違ってくるでしょう。妥協案として、スタイラスペンを使うタブレットPCやデジタルペンを使うのもいいですね。

Melanie Pinola(原文/訳:向井朋子、合原弘子/ガリレオ)

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